
昨年11月ごろ、ホールに勤める30代のA子さんの元に裁判所から裁判員の候補者になった通知が届いた。育児や介護に追われているわけでもなく、拒否する正当な理由もなかった。
裁判員になれば、会社を休むことにもなる。A子さんは店長と相談した結果、裁判員になることにした。
候補者通知が来た後、裁判する事件が決まり、呼び出し状が来て、選任手続きが行われる。A子さんは6人の裁判員のうちの1人に選ばれた。
裁判員に当選したことを伝える程度なら問題はないようだが、裁判員になると評議がどのような過程をたどってその結論に至ったか、ということは守秘義務が厳しく課せられている。
ま、裁判の内容は口外してはいけない、ということだ。
A子さんは無事裁判員を務め上げたのだが、裁判が終わって体調に変調をきたすようになった。それまで、無遅刻、無欠勤だったのに、会社を休みがちになった。
人の人生を裁くことが心の負担となって、ノイローゼになってしまったのだ。
裁判員前と後では、人が変わったように変化した。
裁判員裁判の対象事件は、殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、危険運転致死罪などの重大な事件を扱うことになっている。
当然、判決は死刑か無期懲役に相当する事件である。審議の過程では残虐な死体写真を見ることにもなる。
どうして、こんな重大事件を一般市民が裁かなければいけないか、と思う。
改めて裁判員裁判の目的を書くと次のようになる。
国民の司法参加により市民が持つ日常感覚や常識といったものを裁判に反映するとともに、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上を図ること。
A子さんの話に戻すと、まともに仕事ができなくなっただけでなく、日常生活にも支障をきたすようになっている。
これはA子さんにとっても、会社にとっても不幸な出来事だ。
勤務中にうつ病になったのなら、労災認定もできる。これは会社の許可をもらっていても、日常勤務で起こったことではないので、労災にも当たらない。
「会社はA子さんを解雇することはできません」(弁護士)というように、裁判員裁判でうつ病になったからといって解雇は出来ないのは、分かるとしても、会社はA子さんがまともに働けなくなって損害を被っている。
では、会社は損害賠償をどこに求めたらいいのか? 裁判所に聞いた。
「ご本人の心のケアをする相談窓口はご案内していますが、会社が裁判所に損害賠償請求してきた、というケースは私が知る範囲では、聞いたことがありません。損害に関しては弁護士会へ相談されるのがよろしいかと思います」
結果的には国を訴えることになる。

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