高齢の店主が細々と守ってきた銭湯も多く、このままでは暖簾が途絶えるのも時間の問題だ。
そんな中、とある銭湯の売却話が偶然ホールオーナーの耳に入った。
最初、オーナーは「これは面白い」と前向きに乗り気だったという。
理由は明快だ。銭湯をホールの会員サービスとして活用できるのではないかと考えたからだ。
今でこそ自宅に風呂のない家庭はほとんどない。しかし、広い湯船でゆったりと足を伸ばし、サウナでじっくり汗を流す銭湯ならではの贅沢は依然として人気がある。
もし会員特典として「入浴料半額」が提供できれば、喜ばれるに違いない——オーナーはそう確信した。
しかも、構想はそれにとどまらなかった。
洗面器にはマリンちゃんのイラストを入れ、浴場の壁には海物語の世界観を大胆に描く。タイル絵にはマリンちゃんとサムが泳ぎ、電飾でキラキラ光る大海原が広がる。そんな「海物語銭湯」が実現すれば、話題性は抜群だ。
パチンコファンならずとも、SNSで拡散され、新たな客層を取り込めることが予想された。
しかし、現実は甘くなかった。
オーナーが運営するホールは、現在1店舗のみ。ホールから徒歩10分圏内なら即買いだった。しかし、そのホールから件の銭湯までは、ホール顧客が自転車や徒歩で行ける生活圏ではなかった。
これでは、ホールの会員メリットとして成立しづらい。利便性が悪い以上、サービスとしての価値は半減してしまう。
最終判断は「見送り」。
冷静な経営判断としては、妥当と言えるかもしれない。しかし、別の角度から見れば非常に惜しい決断でもある。
なぜなら、ホールの顧客に限定せずとも、「海物語銭湯」というコンセプト自体が独立した集客力を持つ可能性があったからだ。
銭湯衰退の流れが続く中、テーマ性と話題性を兼ね備えた新しい業態は、地域の新たな目玉になり得た。
パチンコ×銭湯という、業界でも他に例を見ない挑戦は幻に終わった。
しかし、銭湯の再生や地域活性化にひらりと風穴を開けるアイデアだったことは間違いない。もし海物語の世界観が湯けむりとともに広がっていたら——堺市に、新しい名物が生まれていたのかもしれない。
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