理由は単純だ。パチンコ機ほど、異常なまでに厳しい制約条件の中で作られてきた電子機器は、他にほとんど存在しないからだ。
それは意外にもパチンコ機の「主基板」で培われた技術だった。Z80に代表されるCPUとアセンブラによる制御は、華々しいITの世界で時代遅れだと思っていた。しかし、その本質は自動車の電子制御ユニットと驚くほど似ている。
自動車制御の世界では、1ミリ秒の遅延が事故に直結する。パチンコ機もまた、1ミリ秒単位でフラグを監視し、決して誤作動を起こさないことが前提だ。しかも24時間365日、ノイズにまみれたホール環境で、フリーズは許されない。この「絶対に落ちないソフトウェア」を作る文化は、自動車業界から見ると優れた技術の一つでもある。
一方、サブ基板で培われた技術は、次世代自動車の「顔」となる運転席周りの液晶ディスプレイと親和性が高い。メーター類やナビが液晶化され、「走るスマホ」とも言われる現代のクルマにおいて、パチンコのド派手な3DCG演出や複雑な情報表示のノウハウは、そのまま武器になる。
さらに、インターネット接続による動画・音楽再生、アプリ利用の分野では、ユーザーを飽きさせない演出、感情を動かす激アツ演出といった“ゲーム的発想”が求められており、ここでもパチンのDNAが発揮できる。
もっとも、技術が近いからといって、簡単に越えられる世界ではない。最大の壁は設計思想の違いだ。
パチンコ業界の最大の敵は「ゴト」であり、守るべきものは出玉の公平性だ。一方、自動車業界の敵は「故障・誤作動」であり、守るべきものは人の命である。
その結果、自動車にはISO26262に代表される機能安全という極めて厳格な国際規格が立ちはだかる。ここに対応するための組織体制、文化、責任分界の構築こそが、本格参入の最大のハードルとなる。
市場が縮小する中、パチンコメーカーにとって自動車産業は単なる新規参入ではない。Z80の職人芸と最先端の描画技術を横展開する、生き残り戦略として極めて理に適っている。
若い技術者にとっても、「今はパチンコを作っているが、その技術はいずれトヨタやテスラでも使える」という未来が見えれば、この業界の見え方も変わってくる。
もし、パチンコメーカーが空飛ぶクルマの制御ソフトを作る日が来たら――そんな想像をしてみるのも、案外悪くない。
※コメントには必ずハンドルネームを入れてください。匿名は承認しません。コメントがエントリーになる場合もあります。