ある日、一人の常連客が景品カウンターにやってきて、こう言った。
「この佃煮、椎茸の方だけ欲しいんだけど、バラで交換できない?」
しかし、ホールのルールでは2個セットになっているものは、バラして交換することはできないと決まっていた。カウンターのスタッフはその旨を説明し、丁重に断った。客は「そうか、分かった」と引き下がるように見えた。
ところがその後、客は再びカウンターにやってきた。手には包装を破った佃煮の瓶が1つだけ握られていた。
「これで交換してくれないか? 1個だけでいいから、100玉で」
通常なら、このような要求は断るのが普通だ。しかし、客が既に包装を破いてしまっていたため、ややこしい状況になっていた。結局、スタッフは店長に相談し、店長の判断で特例的に交換を認めることになった。
残ったタラコの佃煮は、捨てるのももったいないということで、社員食堂に置かれ、スタッフたちで分けて食べることになった。店長も、これくらいなら問題にはならないだろうと考えていた。
しかし、この判断が思わぬ波紋を呼ぶことになる。
数日後、店長はオーナーから呼び出され、突然降格処分を言い渡された。
「お客様から受け取った景品を勝手に処分するとは何事だ!」
この言葉に店長は驚いた。たかが佃煮一瓶で、降格処分はあまりにも厳しすぎる。長年働いてきた店長のキャリアを考えれば、口頭注意や軽い処分で済ませるのが普通だ。しかし、オーナーは厳しい口調で言い放った。
「ルールを守れない者に、店を任せるわけにはいかない」
店長は理不尽な処分に納得がいかなかったが、従うしかなかった。
だが、この降格にはもっと深い理由があった。
実は、この店長は「デキる店長」として知られ、業績をそれなりに上げていた。しかし、その裏では機械納入業者と結託し、店に対する請求を水増しし、その差額を業者から受け取るという不正を行っていたのだ。これは明らかに業務上横領に当たる行為であり、証拠が揃えば懲戒免職にできるレベルの不祥事だった。
にもかかわらず、オーナーはすぐに解雇することはしなかった。なぜなら、この店長は売上を伸ばせる貴重な人材だったからだ。完全に切り捨てるのではなく、降格という形で処分を下すことで、店長を監視下に置き、最終的なタイミングを見計らおうとしていたのだ。
佃煮の件は、あくまで降格処分の口実に過ぎなかった。実際には、オーナーは店長の不正を把握していたのだ。
結局のところ、佃煮一瓶の問題は、店長の横領問題の引き金に過ぎなかった。しかし、店の運営において、小さな問題が大きな波紋を呼ぶことは珍しくない。ルールを破ることのリスク、そして上層部の判断が単なる感情的なものではなく、裏に戦略が隠されている可能性があることを、この出来事は物語っている。
一見些細な出来事が、実は長年にわたる不正をあぶり出すきっかけになった。店長の座を守るためには、業績だけでなく、クリーンな運営も求められるのだ。
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