日本の前田凛と中国の唐婧の一戦。寝技の攻防で、体勢を崩された唐婧が、なんと前田の左上腕に噛みついたのである。
しかも、一瞬の出来事ではない。審判から「待て」の合図が出るまで20秒以上、道着の上から噛み続けた。道着越しにもかかわらず、前田の腕にははっきりと歯形が残った。
前田は噛み跡を審判に見せて反則をアピール。数分間の中断を経て、唐婧の反則負けが宣告された。
このニュースを聞いたあるホール関係者が、20年以上前に在籍していた女子社員のことを思い出した。
仮にA子さんとしよう。
A子さんには、とんでもない癖があった。コミュニケーションを取るのが苦手で女子社員同士で揉め事になると、相手に噛みつくのである。それも一度や二度ではない。
当時は今ほどコンプライアンスに厳しい時代ではなかったこともあり、噛みつかれた側が警察に被害届を出すようなこともなかった。
しかし、カウンター業務を複数人で担当させると、A子さんがいるだけで何かとトラブルになる。
そこで会社は、A子さんを表回りの業務に配置転換した。
ところが、ここでも事件が起きた。
ある常連客は、ホール内にゴミをところ構わず捨てるなど、店にとっては少々厄介な客だった。
ある日、いつものようにゴミを床に捨てたところ、A子さんが注意した。
「お客様、ゴミはゴミ箱に捨てていただけますか。他のお客様にもご迷惑になります。どうしてもその場で捨てたいのであれば、私を呼んでください」と至って穏当な注意である。
ところが、常連客は「うるさい!」と逆上し、A子さんの胸倉を掴んだ。
その瞬間だった。
A子さんは反射的に、胸倉を掴んだ男の腕にガブリと噛みついた。腕には見事な歯形が残った。
いくら行儀の悪い客とはいえ、客の腕に噛みつくのはまずい。
「アイツがいると気分が悪い」と常連客は捨てぜりふを残して帰った。
会社も、これまで従業員同士のトラブルで何度も噛みついていたことは把握していたが、今回は相手が客である。さすがに看過できず、A子さんを解雇することになった。
ところが、事件はそれで終わらなかった。
後日、その常連客が弁護士を伴ってホールの事務所に現れた。
示談交渉が始まったのである。
その過程で、常連客がいわゆる反社会的勢力と関係があることも伺えるようになった。
最終的に示談金は100万円で決着した。
警察に被害届を出して刑事事件にするより、示談によって慰謝料を取る方がいいと判断したのだろう。
それにしても、女子社員同士のトラブルでも噛みつき、客にまで噛みつく。まさに「噛みつき」が彼女の必殺技だった。
その後のA子さんについては、風の噂で「SMクラブで女王様をやっているらしい」と伝わってきたという。
柔道では噛みつけば一発で反則負け。
ホールでも客に噛みつけば、当然ながらクビになる。
ただ、A子さんにとっては、最後にその特技を生かせる職場が見つかった、ということなのかもしれない。
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