“次なる一手”として、店長は棚に予備を置かない作戦に出た。トイレットペーパーホルダーは2連式だから、最低限の備えはこれで十分のはず。しかし、この策も通用しなかった。今度はホルダーの予備が盗まれる事態に発展したのだ。
店長は頭を抱え、いよいよ犯人を特定すべく調査を開始した。トイレの入口には監視カメラが設置されていたため、誰がトイレに入り、どのタイミングでペーパーが消えるのかをチェックした。
その結果、意外な真相が浮かび上がった。毎日顔を出す常連のおばちゃんが犯人だったのだ。このおばちゃんは、負けっぷりが良く、ホールの売り上げに多大な貢献をしてくれている重要顧客である。注意して来なくなれば、売り上げが消える可能性が高い。
店長は困り果て、オーナーに相談した。オーナーの判断は明快だった。「黙っておけ。」それどころか、「注意書きでも貼ればいいんじゃないか」と軽くアドバイスをしてきた。しかし、既にその策は試して効果がなかったことを伝えると、オーナーは思わぬ提案をしてきた。
「逆張りだ! 期間限定でリラックマのトイレットペーパーを導入し、感謝のメッセージを貼り出せ!」というものだった。早速リラックマの可愛らしいトイレットペーパーがトイレを彩り、ホール内には「日頃のご愛顧に感謝!リラックマも応援中」といったポスターを貼りだした。

驚いたことに、リラックマのトイレットペーパーが導入されると、盗難がピタリと止まったのだ。一体なぜなのか? 普通のトイレットペーパーにしか興味がないのか? 店長もスタッフも首をひねるばかりだった。
そんなある日、真相が常連客からもたらされた。イレットペーパー泥棒のおばちゃんと居酒屋で飲んでいた時だった。盗難事件の核心に触れる話を耳にしたのだ。
「私、トイレットペーパーを買ったことがないのよ!」と自慢げに語り始めたという。
さらにおばちゃんは熱狂的なリラックマファンとのことで、「リラックマでお尻を拭けない」と盗まなかった理由まで吐露したのであった。
こうしてホールのトイレットペーパー盗難問題は一時的に収束した。しかし、トイレの設備更新が必要となる時期が来たため、ホールはさらなる策を講じることにした。
便座の交換に合わせ、トイレットペーパーを盗難されにくい巨大なジャンボロール式に変更したのである。このジャンボロールは補充の手間も削減でき、一石二鳥の解決策となった。
しかし、ホールのスタッフは密かに思っているに違いない。
「あのおばちゃん、今頃どこでトイレットペーパーを調達しているのだろうか…」と。

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