これは、かつて世界最大の写真フィルムメーカーとして君臨したコダック社が、1999年に過去最高益を記録したにもかかわらず、そのわずか10年後の2009年には経営破綻寸前まで追い込まれた。デジタル化の波に飲み込まれた一連の流れをコダックモーメントと呼び、ビジネス界における変革の遅れや判断ミスの象徴として語られている。
この物語が「変化を拒んだ老舗企業の末路」として語られる際、多くの人が見落としている事実がある。それは、1975年に世界で初めてデジタルカメラを商品化したのが、他ならぬコダック社自身であったということだ。
決して変化を恐れていたわけではない。むしろ技術の先駆者だった。しかし、デジタル化が進めば、主力であるフィルム事業に大きな影響を及ぼす。莫大な利益を捨てることができず、デジタル化の道を拒んだ。その結果、過去の成功体験に縛られ、自社の強みを活かしきれないまま時代の波に飲み込まれた。
一方、当時フィルムシェア世界2位だった富士フイルムは、主力事業の衰退を早くから見越し、医療や化粧品、電子材料などへの大転換を果たした。今やフィルムメーカーのイメージは薄れ、多角的な先端企業として世界で存在感を放っている。コダック社との違いは、技術力ではなく「過去との決別」への覚悟だった。
この教訓は、今まさに変革を迫られているパチンコ業界にもそのまま当てはまる。
ホールもメーカーも、既存顧客への依存度が極端に高く、新しい層へのアプローチは一部の試みを除いて依然として限定的だ。スマパチ・スマスロなど次世代遊技機を打ち出してはいるが、業界全体の枠組みは「従来のパチンコファンがどう反応するか」に終始しており、それはコダック社が「フィルム販売を守るためにデジタルを抑制した」構造と酷似している。
また、少子高齢化といった外的要因が、業界の構造を揺るがす中でも、「一発逆転の神台」の登場で集客を図ろうとする傾向は根強く、業界はフィルム依存から抜け出せないコダック社の姿とダブる。
一方、遊技の枠にとらわれず、アミューズメントや観光、飲食、福祉といった異業種との融合を模索する動きはまだ一部にとどまる。富士フイルムが写真業界を飛び越えて新たな顧客価値を創出したように、パチンコ業界も「遊技機を並べて遊ばせるだけ」のビジネスモデルから脱却する勇気が求められている。
業界全体が変化を拒むのではなく、変化を現場レベルで止めてしまう構造がコダック社と同じく最大のリスクであることを忘れてはならない。
必要なのは、先進的なアイデアではなく、それを実行し、過去の利益構造と決別する覚悟なのだ。
過去の栄光を捨てられずに滅びたコダック社の轍を、パチンコ業界は踏んではならない。コダックモーメントは他人事ではない。業界が今向き合うべき最重要テーマだ。
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