おじいさんの部屋の押し入れの奥から出てきたのは、大きな段ボール箱が二箱。中を開けると、びっしりと詰め込まれていたのは、見慣れぬ小さな板状の物体だった。そう、それはすべてパチンコの特殊景品だったのである。おじいさんは昔から何でも貯め込むのが趣味のような人だった。
特殊景品は現在、TUCが取り扱う「金賞品」へと統一されているが、驚くべきことに、この段ボールにはTUCの金賞品だけでなく、金賞品へ切り替えられる前の古い特殊景品まで混ざっていた。数を数え、ざっと計算すると、金賞品だけでも合計200万円相当。さらに古い特殊景品の分を合わせれば、相当な額になることが予想された。
金賞品は、そのままTUCで換金することもできる。しかし、最近の金相場の高騰を考慮すると、TUCを介さず直接貴金属買取業者に持ち込んだほうが、より高額で売却できる。
現に、田中貴金属工業では金1グラムあたり約1万6000円ぐらいで買い取っている。金賞品をすべて売却すれば、TUCで換金するよりも遥かに高額な現金を手にすることができる計算だった。
問題は、TUC導入前の古い特殊景品である。TUCが設立されたのは1990年。それ以前の景品が存在するということは、少なくとも35年以上前から貯め込まれていた可能性が高い。
家族は早速、動いた。まず、おじいさんが生前通っていたホールに確認を取ることを試みた。しかし、ホール側は「TUC以前の特殊景品については当店では対応できません」との一点張りだった。現在、東京都内のホールはTUCと連携しており、旧来の特殊景品の取り扱いはしていないのが現実だ。
そこで家族は、市役所が主催する無料法律相談に赴き、弁護士に直接相談することにした。弁護士の見解は厳しく、「こうした返還請求の類は、民法上の時効が10年で成立するため、法的には換金を求めるのは難しい」というものだった。さらに、現在の景品交換システムはTUCが管理しているため、過去の特殊景品をTUCに持ち込んだところで、彼らに買取義務はないという。
しかし、家族としては納得がいかない。そもそも特殊景品には有効期限の明記がなく、「いつまでに換金しなければならない」とはどこにも書かれていない。であるならば、未使用の特殊景品を持っている以上、換金する権利があるのではないか。そう思うのも無理はない。
もし全国統一で「金賞品」のみを特殊景品として採用していれば、このような問題は起こらなかったかもしれない。金賞品は全国どこでも価値が変わらず、貴金属としての流動性も高いため、理想的な特殊景品だった。
しかし、現実はそう甘くない。金価格の高騰により、TUCは1gの金の大景品を廃止し、代わりに銀1gの「銀賞品」を導入するに至った。
理想と現実のギャップはどの時代にも存在する。おじいさんが遺した大量の特殊景品を前にして、家族は苦笑いを浮かべるしかなかった。結局、換金可能な金賞品だけを売却し、古い特殊景品は記念として一部を保管することに決めたという。

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