貧乏ゆすり選手権があれば優勝しそうな勢いに、隣に座った客が「気が散る」と嘆き、「これじゃあ当たりを引ける気がしない!」と憤慨するのも無理はなかった。では、この1年間でどれほどの苦情が寄せられたのか? 答えは実に20人ほど。多いのか少ないのか微妙だが、確実に波風は立っていた。
※注 この動画は文中の本人ではありません。イメージです。
事態を重く見た店長は、ついにオーナーに相談を持ちかけた。「このままでは他の常連客が離れてしまいます!」と案じた。オーナーがどのような策を授けるのか…と期待したが、返ってきたのは予想外の一言。
「ほっとけ」
店長は耳を疑った。
「ほっとけ!?」
オーナーは続けて、こう説明した。
「もし注意して、その人がエコノミー症候群にでもなったらどうする? 長時間座りっぱなしで血栓ができて命に関わったら、こっちが責任を問われかねないだろう」
一見突飛に聞こえるこの理屈。しかし、じっくり考えると一理ある。貧乏ゆすりは無意識の癖であり、指摘されても完全に直すのは難しい。それどころか、せっかく常連になっているのに、注意されて不満を募らせ、「もうこの店には来ない!」と憤慨して去っていくリスクすらある。
そこで、オーナーと店長は直接の注意ではなく、もっと柔軟で穏やかな対応を模索することにした。
第一歩は、貧乏ゆすり王とのコミュニケーションだ。単刀直入に注意するのではなく、まずは軽い世間話を通じて信頼関係を築く。例えば、「今日は調子どうですか?」とか、「この前のイベントの景品、結構人気でしたね」など、日常会話で心の距離を縮める作戦だ。
十分な関係性が出来上がったら、次のステップへ進む。貧乏ゆすりが特に激しくなったタイミングで、さりげなくこう声をかける。
「最近お疲れですか?ちょっと休憩されてはいかがでしょう?」
これがポイントだ。直接「貧乏ゆすり」とは言わず、さも心配しているかのように促すことで、相手に気付かせるのだ。
もちろん、この方法だけで全てが解決するわけではない。ルールやマナーに関する掲示物を設置し、店としての姿勢を示すことも必要だ。
それでも改善が見られない場合は、最終手段として入店を控えてもらう判断を下さざるを得ない。
しかし、そこに至るまでのプロセスが重要だ。オーナー曰く、「客商売はバランスが命。1人を守るために20人を失うようなことがあってはならないが、逆もまた然り」と説く。
こうして、貧乏ゆすり王との共存を目指す日々が続いている。

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