彼の立ち回りは、ただ勘に頼るようなものではなかった。前日の夜から立ち回り先のホールデータを入念に調べ、チェーンごとの設定配分の傾向や、個々の店長のクセ、イベントの信頼度といった、表に出にくい情報までをもとに分析を重ねていた。
その上で、最も設定6が投入される可能性の高い台を選び出し、翌朝の開店に合わせて並ぶのである。彼の勝ち方には、緻密な情報収集と経験に裏打ちされた理論があった。
しかし、そんなスロプロくんも、ある時期を境にその道を引退した。その理由は明快だった。これまで築き上げてきた勝ちパターンが通用しなくなったからだ。設定6が入る台は年々減少し、抽選の結果次第では立ち回りの余地すらないという状況に陥った。朝から並んでも、抽選番号が悪ければその時点でゲームオーバー。打つ価値のある台に座ることさえ難しくなったのである。こうして彼は、スロプロとしてのキャリアに終止符を打った。
スロプロくんの引退から10年が経過した現在、パチンコよりもむしろスロットの方が再び活況を呈している。特に6号機ショックを乗り越えた機種たちの登場により、スロットファンの熱は再燃している。そのような時代において、いずれ登場するであろうと予測されているのが「AIによる店選びアプリ」である。
先日、業界関係者向けに行われたMIRAIのセミナーで、ジーズ社がその可能性について言及していた。このアプリは、スロプロくんたちがかつて行っていたようなデータ収集や、店長のクセ読み、イベントの信頼度分析といった作業を、AIが瞬時に代行してくれるというものである。ユーザーは、ただアプリの指示通りに動けば、翌日どのホールの、どの機種の、どの台に座るべきかが分かる。まるで専属の軍師を抱えているようなものだ。これが実現すれば、誰もがスロプロになれる時代が来るかもしれない。
もっとも、このアプリを成立させるためには、大前提として各ホールが出玉データを公開していることが必要である。現在のところ、大半のホールは出玉情報を非公開としている。裏を返せば、それは出玉に自信がないことの証左でもある。出玉情報を堂々と公開できるホールは、出玉の信頼性と営業の誠実さをアピールできる貴重な存在であると言える。
こうしたAIアプリの登場は、業界にとっては諸刃の剣である。一方で、透明性のある営業が評価され、ユーザーにとって有益なツールとなることで、スロットファンを新たに獲得する可能性がある。逆に、データを出さない、信頼性の低いホールは淘汰されるかもしれない。だが、そうなれば、業界全体の質が底上げされる可能性もある。
果たして、かつてのスロプロたちが積み上げた「知見」は、すべてAIに置き換えられるのだろうか。人間の勘と経験が活きる余地はまだ残るのか。それとも、勝負の世界にもいよいよ機械的な合理性が支配する時代が来るのか。いま、スロットの未来は新たな転換点を迎えようとしている。

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