そんなある日、取引先の営業マンから、ある提案を受けた。
「店長、最近のマルチコピー機ってすごいんですよ。ただのコピーやプリントアウトだけじゃなくて、チケットの発券や写真プリント、スポーツ振興くじの購入までできるんです」
店長は右から左に聞き流した。コピー機などコンビニで十分に事足りるのではないか。わざわざホールに置く必要があるのか、と。
しかし、営業マンは続けた。
「コンビニには確かにありますが、ホールならではのサービスを加えれば、話は変わってきます。例えば、ホールの会員さんが誕生日当日に来店したら、誕生日新聞をプリントしてプレゼントすることもできます。そうすれば、お客さんの来店動機になるかもしれませんよ」
確かに、ホールは新台入れ替え以外に目立った集客策がない。もしマルチコピー機が話題を呼べば、新しい客層を呼び込めるかもしれない。店長は半信半疑で、1台導入してみることにした。
設置からしばらくは、思ったほどの反応はなかった。しかし、ある常連客がSNSで「パチンコ屋で昔の新聞が印刷できる!」と投稿したのをきっかけに、徐々に利用者が増えていった。
特に年配客が自分の誕生日新聞を印刷し、懐かしい気持ちに浸る様子が見られた。
ある日、店長は一人の若い男性客に話しかけられた。
「店長、このコピー機のおかげで、うちのおじいちゃんがまたパチンコに来るようになったんですよ。昔の新聞を見ながら、あの頃はこうだったって楽しそうに話してくれるんです」
その言葉を聞いて、店長はふと考えた。ホールはただ遊技をする場所ではなく、人々の思い出や交流の場にもなり得るのではないか。新台入れ替えだけが集客の方法ではない。マルチコピー機のような、ちょっとした仕掛けでも人の心を動かせるのだ。
ホール側は他の活用方法も模索し始めた。例えば、近隣の飲食店と提携し、コピー機を通じて割引クーポンを発行するサービスや、地元のイベントチラシを印刷できるようにすることで、地域とのつながりを強めるアイデアが浮かんだ。
また、競馬や競輪など他のギャンブル好きの客層にも訴求できるよう、関連情報のプリント機能を加えるのも面白いと思った。
パチンコ業界は厳しい状況が続いているが、発想次第ではまだまだ可能性がある。マルチコピー機の導入は、その小さな第一歩なのかも知れない。店長は、次の一手を考え始めていた。

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