40代の独身男性契約社員が無断欠勤した。このホールに数年勤めているが、無断欠勤するような人物ではなかった。ケータイに連絡を入れるがつながらない。万一の場合の緊急連絡先もつながらなかった。
1日、2日、3日、と連絡がないままに時間だけが経過した。3日目に店長が彼のアパートへ向かった。大家さんに事情を話した。万一、部屋で亡くなっているケースも考えられたので、警察も立ち合いの下に、部屋の鍵を開けた。
部屋は荒らされた様子もなく、本人の姿もなかった。
失踪したことも考えられるので、行方不明者の捜索願を出すことにした。そこで人相などを聞かれた。
従業員の失踪騒動にオーナーは「昔はそんなことはよくあった」と平然としていた。ホールで駆け落ち話は珍しいことではなかったが、そんな相手もいるとは思えず、店長以下従業員はざわついた。
オーナーが平然としているのは、本当の裏事情を知っているのではないかと、またしても従業員がざわつき始めた。曰く「北朝鮮に拉致された?」「実は工作員だった?」。
店長は従業員たちの噂話を聞き流すわけにもいかず、オーナーに進言した。
すると、捜索願を出した時に、人相や特徴から指名手配の強盗犯ではないか、との疑いも持たれていることをオーナーから聞かされた。
それで、オーナーは平然とした態度を取っていたのか、と妙に納得した。
しかし、この指名手配の強盗犯人というのも濡れ衣だったことが2週間後に分かることになる。
本人がひょっこりと出社してきたのだ。2週間も連絡が取れなかったことをこう明らかにした。
「実は付き合っていた女性に別れ話がこじれて監禁されていました。なんか薬を飲まされたのか、気が付いたら結束バンドで両手足を縛られていました」
男性の方は別れ話を持ち出したが、女性の方が復縁を迫った。計画的だったのか家の中には大量の食べ物を用意していて、この間、一歩も外へ出ることはなかった。
2週間監禁していたら、女性の方も、どうしてこんな男が好きになったのか、冷静になってきて、解放された、ということだ。
失踪騒動が拉致か工作員の噂が立ち、次は指名手配の強盗犯になり、最後は痴話げんかによる監禁事件だった。
北海道には北朝鮮の漁船が漂着している時期だったこともあって、様々な憶測を呼んだが、真実は一つしかない。

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