都内に住む30代の主婦A子さんは、5歳の子供が幼稚園に通っていた頃、育児と家事で手一杯な生活が嫌になりはじめていた。昼間は幼稚園バスの送り迎え、夕方からは家族の食事作り。そんなことは誰もが当たり前にやっていることなのに、A子さんにとってはそれが苦痛でもあった。
ある日ママ友に誘われて、昼間パチンコ店へ行った。
ビギナーズラックとはならなかったが、嫌な日常から現実逃避できたことに、自分の居場所を見つけられた思いになった。
やるのは1パチ、5スロ。
2000~3000円使ったら切り上げる程度だった。負けることが半年ぐらい続いた時、今までの負けを取り戻すために、初めて4パチに挑戦した。
その時8万円も勝った。1パチでは味わえない勝ち方だった。そこから、パチンコから離れられなくなった。頭の中はパチンコのことしか考えられないようになった。
それまでは平日、子供が幼稚園に行っている時にやっていたが、家族にウソをついて土日もやるようになった。その頃からヘソクリも底を尽いてきた。
そこで手を出したのが消費者金融だった。審査では5万円程度しか借りられなかった。
複数の消費者金融から15万円を借りた。生活費から返済した。
パチンコから足を洗おうと思う気持ちはあるが、抜けられない自分がいる。
そんな時、旦那が三重県へ転勤することになった。
三重県へ引っ越して、近くにパチンコホールがないような場所へ引っ越したら、これでパチンコを辞められると思い、周りにパチンコホールがない場所を探した。
ところが、パチンコをやりたい、という気持ちが抑えられず、車で1時間かけてパチンコホールへと向かった。
使う金額は相変わらず2000~3000円。とにかく、玉を打っているとホッとした。
そんな自分に嫌気が指して、精神科医で診てもらった。
寂しい心を埋めるため、という程度で原因は分からないままだった。
完全に止められないままの日が続いたある日のことだった。
運よく、連チャンに次ぐ連チャンで玉箱を何箱も積んだ。その日は何故だか背後に視線を感じた。従業員がずっと後ろに立っていたのだ。
打ち終えるとすぐに従業員が台を開けて何かを調べている。
ゴト師と疑われていることに気づき、玉を一杯だしたら疑われることが怖くなり、それでパチンコを止めることができた。
暫くパチンコから離れていた。
ある日家族でドライブ旅行に出かけた。子供が急にトイレへ行きたくなり、パチンコ店へ立ち寄った。従業員に説明してトイレを使わせてもらった。
A子さんは床に落ちていた1発の玉を拾って打ったところ、これがスタートに入り大当たりしてしまう。打つのを旦那に代わってもらい、子供とA子さんは車に戻る。
旦那が車に戻って来たのは2時間後だった。
大勝ちした。
旅行代を差し引いて、3万円をA子さんに渡した。
せっかく止めていたのに、この3万円を貰ったことで再びパチンコにのめり込むようになった。
ヤミ金で作った借金は70~80万円に膨らんだ。
本当にパチンコを止めたくて、パチンコ店のトイレに貼っているリカバリーサポート・ネットワークにも電話を入れた。周りに止めてくれる人がいないと止められないことも分かってくる。止められるクスリがあればいい、と思い、別の精神科医に足を運んだ。
「日本全国にパチンコ店があるので、あなたの場合難しい」
実家の母と同居してパチンコへ行かせない環境を作った。
同居は1年以上続いた。行かせない環境は物理的に出来ても、頭の中はパチンコのことばかりだ。コンビニへ立ち寄ってパチンコ雑誌を見ただけで心は穏やかではいられない。母親の目を盗んでパチンコ店へと向かった。
そんな折、旦那が転勤で今度はタイへ行くことになった。当初は単身赴任の予定だったが、A子さんのパチンコを断ち切るために家族でタイへ行くことになった。
これで完全にパチンコのない環境が出来上がったことになるが、依存症から完全に脱却できたわけではない。タイでパチンコに代わる心の隙間を探すことになる可能性がある。
依存症とは心の隙間を埋める病気であって、射幸性を落としても依存症の対処療法にすらならないことが分かる。

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