「クビだ! 辞めさせろ!」
相手は何と常連客の女性だった。これが社長の逆鱗に触れた。
「従業員とお客さんが男女関係になるのは、好ましくない。付き合っている時からサービス玉も余計入れているんじゃないか。そんな奴は会社には置けない」
社長はまず不正につながることを疑った。
しかし、そういう事実はなかったが、過去に痛い経験をしているのかも知れない。
平社員ではお客とつるんで悪さをすることは難しいが、これが役職者ともなるとやりたい放題のことをすることもある。
代表的なものは設定漏洩などがある。
そういう不正ができない環境を会社が整えて置く責任もある。不正できない環境なら、そうした心配を社長がする必要もないし、働く社員も毎日疑いの目で見られるよりも格段に働きやすい。
今回のケースでは不正できない環境作りができていない、ということでもある。
付き合うようになったきっかけはこうだった。
常連さんなのでお互いに顔は知っていた。それがある日街でばったり会って、食事に行くことになった。それで意気投合して付き合うようになり、結婚することになった。
今回のケースで板ばさみになっているのが店長だ。
「客との結婚はもってのほか」という社長の考え方は頑なで、社長は「辞めさせろ」の一点張り。
ところが、就業規則にはお客と交際することを禁ずる一文はどこにもない。従ってAくんが就業規則違反を犯しているわけでもないので、辞めさせることはできない。
ましてや、労働基準監督署にかけこまれたら間違いなく会社は負ける。
店長がAくんを辞めさせることができないのなら、会社からは店長の管理能力を追及されることは必至だ。
従って、店長もあまり強く「これは違法になります」とも言い辛い。
こうしたケースで大手チェーンではどのような対応を取っているのだろう?
「就業規則にはお客様と交際してはいけないとは書かれていないですね。店長でお客様と結婚した人もいます。うちでは問題視していません」(大手ホール関係者)
では、中小ホールのケースを紹介してみよう。
「就業規則ではお客さんとのことを盛り込んではいませんが、入社直後の教育の中で、お客さんとの交際や金品をもらってはいけないことを教えています。もし、お客さんと付き合っていることが発覚した場合は、会社を辞めてもらう、という誓約書にサインしてもらっています」(中小ホール営業本部長)
昔は客と会話することすら禁止するホールがあった。それは仲良くなって、不正を未然に防ぐためだ。
イベントが禁止され、ホールは接客重視に方向転換を余儀なくされている。その一環として、お客さんとのコミュニケーションを重視するところが増えてきている。
お客さんとの不正が懸念されるなら、最初に教育することと、不正ができないチェック体制を敷くことで解決できるはずだ。

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