都内のホールに1人の男性客が入ってきて海の島に着席した。
見かけない顔だった。
髪の毛は何日も洗っていないのか、脂でねっとり、ふけも浮いている。服も薄汚れている。
近くに行くとやはり何日も風呂に入っている雰囲気はなく、浮浪者特有のすえた臭いが漂ってくる。
カネを使って打ち始めた。
横に座っていた客は、あまりの臭さにいたたまれず、両サイドの3席分の客が1人、2人と席を離れていった。
客からすぐに従業員に苦情が寄せられた。
従業員が近づくとほのかにすえた臭いが漂ってきた。背後に立ち止まると臭いはさらに酷く感じられるようになった。
これでは、隣で打つことは我慢できるレベルではないことが分かった。
これは店を出て行って欲しい不快な臭いだった。従業員の判断ですぐにお引取り願うことはできないので、店長に相談した。
あいにく、店長は中抜けで自宅で休憩していたが、電話で事の成り行きの報告を聞いた。
店長にしても初めてのケースで、出て行ってもらうか、どう対処するか判断がつかなかった。
とりあえず、店に戻り、自分の鼻で確かめることからやった。
確かに、自分が臭っても悪臭のレベルだ。
ここは他のお客さんの迷惑になるので、出て行ってもらいところだが、おカネを使って遊んでいるお客さんである。
店長も判断がつかず迷って上司に相談した。
それで、出た答えはそのお客が立ち去るまで待つ。
臭いを感じる近くの客は自然と離れて行った。従ってお客からそれ以上クレームも来なくなった。
あっさり負ければすぐに立ち去るところだが、このお客さん、運良く連チャンを重ね、結局、4時から9時まで5時間も店で悪臭を放つことになった。
この臭いの問題、今回は風呂にも入っていない悪臭だったが、中にはワキガの人もいれば、強烈な香水をつけた女性客など様々だ。
ワキガや香水がきついからといって来店を断るのも難しい。
このホールの店長はふと、全国の店舗では風呂に入っていない悪臭客をどのように対処しているのか知りたくなった。
ホールにはトラブル対応マニュアルがあるはずだが、こういうケースのことは触れているのだろうか?
浮浪者臭のするこの男性客、何と翌日も来店した。
ところが、今回はこざっぱりして臭いもなかった。
どうしてか?
常連客がいたたまれず「あんた臭いよ。こういう大勢の人が来る場所に来るのなら風呂ぐらい入ってらっしゃい」と注意した結果だった。
店がいうとトラブルになるかも知れないが、客からいわれると案外素直に聞き入れるのかも知れない。
退店させなかった判断が1人の顧客をつかんだとも言える。
この話にはさらに後日談がある。
その客はその後も店を訪れるようになった。
会員登録した時に従業員がそれとなく話をして次のことが明らかになった。
3年半世界の放浪の旅に出ていた。最後はタイから帰ってきた。
海外を放浪していると無性にパチンコを打ちたくなったので、バックパッカー姿のまま店に直行したのであった。
「久々に打つと楽しい。やっぱりパチンコは面白いね」と感想を漏らした。
ところで、そのバックパッカー客は、最後は飛行機に乗って帰ってきているわけだが、飛行機の中は逃げ場がない。周りの客は大迷惑だったことだろう。
この場合、CAはどう対処したのだろう?
ファブリーズでもふりかけたのだろうか。
後日談はさらに続く。
その後も店を訪れるようになり職業を聞いてビックリ。
何と作家だった。

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