彼女の業務はホールの表周りだった。
常連客から「接客中に彼女の臭いが気になる」「不快だった」といった複数の苦情が寄せられた。苦情内容がスタッフの個人名を挙げるレベルになったため、やむなく表周り業務からカウンター業務へ配置転換した。
業界歴30年の店長にとっても、ここまで従業員の体臭クレームで悩まされた経験はなく、どう対応すべきか頭を抱えてしまった。これは極めてデリケートな問題であり、安易に「ワキガだから何とかしてほしい」と伝えることは、パワハラや人格否定と受け取られるリスクがある。実際に指摘されたことでショックを受け、退職や訴訟に発展した事例も少なくない。
とはいえ、放置すればお客さんだけでなく他のスタッフの士気や店舗の評判にも関わる。では、どのようにすれば本人にも周囲にも配慮したうえで改善を促せるのか。
店長の頭の中ではまだ結論は出ていない。
そんな悩める店長のためにこんなアドバイスを提案してみよう。
それは全スタッフを対象にした衛生セミナーを企画することだ。講師は百貨店の接客研修に定評のある外部コンサルタント。制汗剤や汗取りインナーの紹介を交えた実演形式にすることで、件のスタッフにも「私も試してみます」と自然に受け止めてもらうにする。
体臭・ワキガを強い香水で上書きするのではなく、医師の診療を含む本質的なケアがあることを伝えることだ。
それで、本人との面談では、「接客の印象に関する声が寄せられている」という客観的事実に基づき、「体調面での変化があれば会社としても支援できる」と医療的な方向性を示す。改善の猶予期間を伝え、必要なら産業医面談を案内する。
ワキガは体質的なもので、本人も悩んでいる可能性がある。だからこそ、本人の尊厳を守りながら、業務上の支障に向き合う姿勢が必要だ。避けるのではなく、“制度”と“配慮”の両輪で対応することが、本人の成長と職場環境の安定につながる。
店長として最も求められるのは、「言いにくいことを、言えるように設計する力」なのかもしれない。
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