ターゲットとした商品は、日本人の国民食とも言えるカレーだ。カレーチェーンの最大手はCoCo壱番屋だが、その価格設定にオーナーは不満を持っていた。トッピング方式でカツやハンバーグ、ソーセージなどを追加していくと、軽く1000円を超えてしまう。日本人の給与が伸び悩む中、こうした価格帯では多くの人が頻繁に利用しづらいのではないか。そこで、もっと安く、なおかつ美味しいカレーを提供すれば成功するのではないかと考えた。
業務用カレー市場にも着目した。食べ放題のランチやネットカフェで提供されるカレーは大抵が業務用であり、味にはこだわられていないことが多い。また、飲食店でもそば屋のカレーは独特な味付けがされており、一般的なカレーと比べると美味しくないと感じる人も少なくない。こうした市場に向けて、自社の業務用カレーを提供し、販路を拡大していくという構想を描いた。
事業の可能性を模索する中で、オーナーはあるニュースに出会った。それは、業務スーパーの創業者・沼田昭二氏が地熱発電に取り組んでいるというものだった。食品卸とはまったく異なる分野への挑戦に驚かされたが、何よりも感銘を受けたのは、地熱発電の調査に必要な掘削機を自社開発したという発想と行動力だった。
地熱発電の調査には、通常、掘削機を大型トレーラーで運搬し、現場で10階建てのビルほどの高さのやぐらを組む必要がある。しかし、多くの候補地は山の上にあり、林道も整備されていないことが多い。そこで沼田氏は、狭い林道にも入り込める自走式の掘削機を開発し、やぐらを不要にすることで、調査作業を1台で完結できるようにした。この革新により、調査期間が大幅に短縮され、従来3億~5億円かかっていたコストが、数千万円で済むようになったのだ。これで地熱発電の道が大きく開けるようになった。
加えて、沼田氏は地熱発電に180億円もの私財を投じた。しかし、それは無謀な賭けではなく、綿密な計画と技術革新による勝算があったからこそ成り立つものだった。
現在は、1年に1カ所、フランチャイズ方式で地熱発電所を増やす計画が進行中だ。
この話を知ったとき、オーナーは感銘を受けると同時に、自らの業務用カレーという発想が小さく感じられた。もちろん、新規事業を立ち上げること自体は意義のあることだ。しかし、スケールの大きな異業種参入を果敢に推し進める人物がいる一方で、自分の考えはどこか守りに入っているようにも思えた。
それでも、ビジネスは大小ではなく、市場のニーズを捉え、適切な供給を行うことが成功の鍵となる。業務用カレーの展開が市場に受け入れられれば、それはそれで一つの成功である。しかし、より大きな視野を持ち、枠にとらわれずに事業を展開することもまた、重要なことだと痛感させられたのだった。
この経験を経て、オーナーの視点は広がった。ただ単に業務用カレーを開発・販売するだけでなく、その先にある可能性を模索し、より大きな事業展開を目指すことを決意した。
沼田氏のようなスケールの大きな挑戦には及ばなくとも、新たな発想と行動力で、業界に新しい風を吹き込むことができるかもしれない。その第一歩として、業務用カレーの展開を成功させるべく、さらなる試行錯誤を重ねるのだった。
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