部長は、わずか1カ月半の間に約1億7000万円を賭け、結果として2400万円の損失を被ったという。個人の金銭感覚をはるかに超えた金額だ。
この事件の前にも、プロ野球選手やお笑い芸人といった著名人が次々と書類送検されており、一連の報道には“見せしめ”の側面も否めない。しかし、警察の本気度が表面化したことは明らかだ。もはや、オンラインカジノは個人の趣味ではなく、社会全体にとって無視できないリスクと見なされている。
オンラインカジノの最も危険な点は、負け金額が青天井であることだ。バカラなどのゲームは1回の勝負がわずか数十秒で終わるため、短時間で巨額の金銭を失うケースが後を絶たない。しかも、スマホさえあれば24時間365日アクセス可能で、物理的制約が一切ない。時間も金も無制限に吸い込まれていくその構造は、「のめり込み」を助長する最たる仕組みである。
一方で、日本では2030年に大阪でIRカジノが開業する予定となっている。こちらは国家が認めたカジノであり、違法オンラインカジノとは一線を画す。
しかし、合法であれば安全というわけではない。むしろ、合法化によってギャンブルへのアクセスが容易になれば、依存症リスクは一層深刻化しかねない。
そのため、IRの開業を見据えて、のめり込み対策の強化が急務となっている。パチンコ業界に対してもその影響は及んでおり、ホール組合の総会に出席した警察関係者は、次のように強く要請している。
「現在、オンラインカジノが大きな社会問題となっています。今年3月、警察庁が実態調査を公表したところ、利用者は334万人、掛け金は1兆2400億円という極めて深刻な数字でした。さらに6月には、事前防止策を盛り込んだ改正ギャンブル等依存症対策基本法が成立しています。加えて、大阪では2030年にIR開業が予定されており、ギャンブル依存やのめり込み問題への関心はかつてないほど高まっています。パチンコ営業はギャンブルとは異なりますが、本年3月に改定された依存症対策推進計画に基づき、引き続きの取り組み強化をお願いします」
この要請の中では、特に「自己申告・家族申告プログラム」の強化が求められている。依存症リスクを自覚した本人やその家族が、店舗に対して入店制限の申し出を行う制度だが、これを形だけのものに終わらせてはならないとする。申告者数の拡大、店舗間の情報共有、対策の実効性――すべてが今後のパチンコ営業に求められる課題となっている。
パチンコ業界は、長らく「依存症=パチンコ」という社会の偏見と向き合ってきた。しかし、今やその構図は変わりつつある。
違法オンラインカジノの急増や、国家主導のIR計画の進行により、ギャンブルに関する社会的議論はより複雑で多層的なものになっている。業界としても「自分たちは関係ない」と背を向ける時代ではない。
とはいえ、過剰な対策が逆効果を生む懸念もある。たとえば大阪のIR計画では、ギャンブル依存対策に重点を置きすぎた結果、投資家の腰が引けてしまい、計画自体の魅力が損なわれるという懸念も浮上している。依存症対策は必要不可欠だが、バランスを欠いては逆に失敗の要因となりかねない。
オンラインカジノ摘発の加速、IR構想の進展、そしてパチンコ業界への圧力。これらすべてが交錯する今、業界も行政も、真に「のめり込み」や「依存」の本質に向き合う姿勢が求められている。次なる焦点は、対策の“質”と“実効性”だ。
今後、もしも大阪IRが過剰な対策ゆえに失敗すれば、それは「のめり込み」対策そのもののあり方を問い直す、次なる大きな論点となるだろう。

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