昨年4月に同店に着任した経田豊店長は、社内でも評価の高い店舗だったので、着任を楽しみにしていた。ところが、現場ではバリバリ接客しているのに、バックヤードでは笑顔も覇気もないスタッフを見て、違和感を持った。

前任者は目標や数字に厳しい、トップダウン型の店長だった。スタッフは出迎えるお客様を思う気持ちも入っていなかった。
結果を出さないとクビにされる。結果に対する圧力がすごかったので、目標を達成する執着心は他店舗よりも圧倒的に高かった。
ただし、指示に従うことしか許されなかったので、やりがいを感じられない仲間はたくさん去っていった。

トップダウン型はすぐに結果が出る利点はあるが経田店長の考え方は違った。
「仕事は自分で考えて、楽しさややりがいを見つけるもの。成功や失敗もたくさん経験して欲しい。その現場こそが人を成長させ、チームをより強くする」
トップダウン型の指示待ち人間になっていた西中島店スタッフは、店長就任から何日経っても店長から明確な指示が出ないことに戸惑った。
現場からは「店長は何を考えているのかさっぱり分からん」と不満さえ聞こえてきた。痺れを切らせた大里副店長が「何をすればいいですか?」と尋ねたが、拍子抜けしてしまった。
「お客さんのことを考えるのなら、何をやってもいい」とたったこの一言だった。
何をやってもいいと言われても、指示待ち型だったので自分で考えて行動することができなくなっていた。指示待ち型は目標は達成できても、何も生み出していないから達成感がなかった。
大里副店長は気づいた。
「仕事が楽しくなければ成長なんかない。店長によってやり方や優先順位は違うが、お客様を思う気持ちは皆同じだ。だったら、もっと自分のほうから自由に動いて色々なことに挑戦するほうが仕事が楽しくなる。自主性こそが自分を、そしてチームを成長させると信じる。それを現場に伝えることが副店長の役目だ」
平賀千恵さんはアルバイト歴2年。現在はカウンタークルーのチーフを務めている。チーフになった当初は、失敗が許されない環境だったため緊張感から逆にミスや誤差も多く、チーフとして機能していなかった。

「何でも好きなことをやっていい」という180度変わった店長方針に、最初は戸惑った。平賀さんはカウンターにまとまりがないことを感じていた。そこで店長にカウンタークルーだけで緊急ミーティングを開きたいと申し出た。
売れ残りがあった特別景品について、お客さんが喜ぶ商品を聞いて回り、お客さんが欲しいものを景品にしたところ、売れ残りがゼロになった。
「私たちの考えとお客様の考えが一致したとき、これまでにない嬉しさがこみ上げてきました。お客様の笑顔が私たちの喜び。お客様のためにもっと何かしたいと考えるようになった。これが私たちの成長です」(平賀さん)
経田店長の「好きなことをしなさい」という一言は、魔法の言葉だった。この言葉に触発されたのが村上良社員だ。入社歴は1年。アルバイトを半年経験した後ですぐに正社員になった。
それはアルバイト時代のことだった。当時は主力のアルバイトが複数抜けたことからバックヤードではどんよりとした空気が流れていた。
「このままではアカンと思って、自分がキャプテンになりますと手を挙げていました。人前に出るのは好きではないのですが、お店の中の人間関係をなんとしたいとの思いだけでした」(村上さん)
早番と遅番にはそれぞれアルバイトのキャプテンがいる。まず、他のキャプテンに職場の現状を聞いてもらうことから始めた。そこから見えてきたのはスパルタ式から自主性に舵を切ったことによる気の緩みだった。
「自由でやるのはいいのですが、気の緩みにつながる自由はいらないと思いました」と締めるべきところは締めた。

ところがやればやるほど空回りして、浮いた存在になった。見かねた副店長が「仲間のことを考えていない」と一言アドバイスした。仲間のことを一切考えていない自分を気づかされた。それからはお客様と同様に仲間のことを考えるようになった結果、チームの壁がなくなった。村上さん自身の成長につながった。
ベラジオ西中島店は自由という責任が個々を成長させ自主性を育んでいる。同店のスタッフは自主性という考えの下で行動している。
MS調査では第一印象ですべてが決まると言われているように、最初のあいさつが感動レベルであれば、また来たいと思う可能性がグッと上がるわけだが、同店では早番と遅番で客層がガラッと変わるために接客のスタイルも変えている。

早番では60代以上のリピーター客が多いため、早番はコミュニケーションを優先事項としている。全員が積極的にコミュニケーションを取り、お客さんが時間を忘れて寛げる憩いの場を目指している。
一方の遅番は会社帰りのサラリーマン客で店内は溢れる。優先事項は先読み行動と清掃。先読みしながら積極的に声掛けをする。単純接触回数が多ければ多いほど、親しみを感じてくる。そのためにも接点を圧倒的に増やしている。

カウンター係は最後の印象を良くするために、おもてなし接客で再来店動機に貢献する。
カウンターでは一人ひとりに合った接客を行う。貯玉が多い客には次回来店時には貯玉で遊ぶことを提案。女性客にはポイント交換会で好評だった景品をススメたりする。

高額景品はプレゼント包装したりメッセージカードを入れることもある。これまで1カ月で35個しか出なかった高額景品が今は1カ月で484個も出るようになった。
「お客様のために最高のあいさつで、最高の元気を伝える。お客様を一番に考えるなら何をやってもいい」と経田店長は2つのことだけを指示した。

指示待ちだった西中店は今では、店長が「こんなことをしたい」と提案すると1週間後には様々な形が生まれるようになった。主体性のあるチームになったことが西中店の強みでもある。
「接客だけで稼働は上がらない。でも、人の力がなければ、稼働は絶対に上がらない。業界には今大きな壁が立ちはだかっているが、強いチームを作り上げることが大きな壁を乗り越える近道です」(経田店長)と言い切る。

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