その場の雰囲気が凍り付いてしまった。
カウンタースタッフの女性は、負けたお客さんからの愚痴を聞くことも日常茶飯事だった。そこで日頃から疑問に感じていたことを社長にぶつけた。
「これまで常連客のために一生懸命働いてきましたが、われわれのやっていることはお客様ののめり込みを助長することにはなっていないでしょうか? おカネを散々使わせて、ジ・エンドになることを手伝っているのではないかと思うと心の整理がつきません」
これに対して社長はこう答えた。
「今、来ている大勢のお客様は楽しんでいらっしゃる。何%かはいるかも知れないが」
納得の行く答えではなかった。
「そうではなく、実際に家庭崩壊しているお客様もいます。でも、私たちにはのめり込んでいるお客様を見分ける方法がありません。業界ではのめり込み防止キャンペーンをチラシでも謳っていますが、どれほどの効果があるんでしょうか?」

社長に助け舟を出すように幹部社員が意見を述べた。
「自分が本当にのめり込んでいるか不安になったら、リカバリーサポートに電話して判断してもらえばいい」
こうれもカウンタースタッフが求めている答えにはなっていなかった。
このやりとりを聞いていたスタッフはこう思った。
「今まで見ないようにしていたものが、見えてしまった。心の隅に引っかかっていたものが表に出てきてしまった。彼女のいっていることは本音だ」
飲み屋で常連客が酔いつぶれるぐらい飲んでいたら、店主は「もうやめときなよ」と声をかけて、それ以上酒を飲まさないようにする。
パチンコ店にはそれがないことをカウンタースタッフはいいたかった。本当にのめり込んでいるお客さんにはパチンコを打たさないことだ。
社長は最後にこういった。
「今来ているお客様に気持ちよく遊んでいただくことがあなたたちの仕事です。お客様から不満がでないように頑張ってください」
会議の後、出席した者同士で話し合った。
「のめり込みの問題を考えると誇りの持てる業界になっていない。その負い目があるから業界は寄付行為をしているが、それは自己満足でしかない」
誇りの持てる業界については、過去にも取り上げたことがある。
依存症問題に目を瞑ることなくオーナーが胸を張って誇りの持てる業界であることを語れるかが、業界の未来にかかっている、といっても過言ではない。
3店方式がグレーから白になった時もそうだが、今のグレーのままでいい、というオーナーも少なくない。胸の張れる業界について寄稿していただければ幸いだ。

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