悠々自適の生活をしていたおばあちゃんが、ある日息子に「おカネを貸して欲しい」と電話がかかってきた。
子供に小遣いを渡すことはあっても、子供からおカネを無心したことは、これまでに一度もなかった。
どうしておカネがいるのか聞いても、「おカネがないから」と要領を得ない。
一人暮らしで生活はできるが、数年前から認知症にかかっていた。
母親の家に行って通帳を見ると600万円のおカネが7年かかってなくなっていた。
病院で診断してもらうと認知症が50%ほど進行していた。おカネの管理ができなくなっていた。
何に使ったのか聞いてもこれまた要領を得ない。それで、母親が好きだったパチンコに使ったことを疑った。
パチンコでおカネを使い果たしたことよりも、パチンコ店で迷惑をかけていなかったが気になった息子は、母親の写真を携えて通っていたホールへ向かった。
店長に事情を説明して母親がどんな行動を取っていたかを尋ねた。
写真を見た店長はすぐに常連のおばあちゃんであることが分かった。
変な言動をして、店に迷惑をかけていなかったどうかだけが、心配だった。
おばあちゃんの来店頻度は、ほぼ毎日だった。すぐ帰ることもあれば、長くいることもあった。
最初は4円を打っていたが、やがて1円で打つようになった。常連さん同士でよく会話もしていた。
息子も炊事、洗濯は自分でできるので認知証が進行していることに気づかなかった。
何より認知症だったことを聞いてショックを覚えたのは店長の方だった。
おばあちゃんは息子が引き取ることになって、引っ越すことになった。
急におばあちゃんの姿が見えなくなると、常連客や店の人が心配するので、と引っ越す時にホールにあいさつに来た。
おばあちゃんは店長に「楽しかったですよ」とお礼を言って立ち去った。
店長から見ても一切認知症には見えなかったが、このおばあちゃん以外にも認知症のお年寄りがいるのかとちょっと不安になってきた。
認知症でパチンコにおカネを使っているのかと思うと心苦しくなったが、おばあちゃんの「楽しかった」という言葉に救われた。


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