ギャンブル依存症が社会問題化する以前からホール内にATMを設置していることを問題視していたのが共産党の機関紙「赤旗」だ。一番最初に報道したのは2009年11月12日。当時関東、関西圏で150台が稼働中で、「ギャンブル依存症拡大の元凶」とパチンコ業界だけでなく、監督官庁、金融機関の責任も追及した。
ATM導入に積極的だったホール関係者が撤去問題の取材に応じてくれた。
「赤旗で騒がれたことで2カ月あまり使用を停止していた時期もありました。再開したものの受け皿だった銀行が手を引き、その後の受け皿となる銀行も取締役会で否決されてしまいました。社会的対面を重んじる銀行としては、赤旗に叩かれて続けることはできませんよね。休止中も受け皿を探していたトラスト社から毎月設置料の名目の形で3万円が振り込まれていましたが、結果的に再開の目途が立たないので撤去しました」
では、どれぐらいの利用額があったのだろうか?
「うちのホールは500台以上のホールと定められていた設置水準以下の小型店舗ですが、ピーク時には月に1500万円ほどの利用額がありました。トラストさんの方が『認識不足でした』と驚くほどの利用額でした。月額の利用手数料を7万円払っていましたが、その価値は十分にありました。ホール側の本音で言えば、負けてカッかしている時に店内で使ってもらうのがベストです。今はホールの真横にコンビニがある時代ですが、お客さんを外に出させたくない」
こんなことを書けば非難の嵐だろう。客の「利便性」という言葉を使ってきれいごとを言うよりも潔い。やたら長いリーチでハズレを作るのもすべては売り上げに貢献するためだったが、今はその姿勢を正す時だ。
「人それぞれ何かに依存していて、それにおカネをつぎ込む。アパート暮らしでも高級車におカネをつぎ込む人もいれば、スマホに課金する人もいる。パチンコはギャンブルのくくりになってしまったので、叩かれる」
このホール関係者の店には25銭パチンココーナーがある。2000円もあれば一日中遊べる。夜の9時に25銭で遊んでいた常連客がプレイを終えても席を立とうとしない。スタッフが心配して声を掛けた。
「足が痛くて、しんどい」
「閉店まで座っていてもいいですから、休んで行ってください」と答えた。
末期の胃がんで余命2カ月を宣告されていた。
家はホールからは歩いて5分ほどの距離にあった。
閉店後役職者が車で家まで送った。
「昨日もしんどそうやったけど、辛いのに来たらアカンでしょう」
「家族も身寄りもいない。しんどくても好きなパチンコを打っていたいんや」
末期がんを宣告され、身寄りのない常連客の唯一の楽しみがパチンコだった。パチンコを打っている間はがんのことも忘れることができた。
ATMと25銭パチンコは対極の位置にあるが、それもこれもホールの風景である。

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