やがて、NTTが独占していた市場に風穴を開ける。日本人の誰もがケータイを持つことができるようになった稲盛氏の功績ともいえる。
第二電電を設立するに際し、稲盛氏はファインセラミックの世界から、まったく経験もしたことがない世界に逡巡するわけだが、この時生まれた言葉が「動機善なりや、私心なかりしか」。
これは自身の動機に利己的な心、「私心」がないかと、半年間にわたり自問したときの言葉でもある。
動機が善であり、実行過程が善であれば、結果は問う必要はない、必ず成功するという信念を表す。
通信事業は民営化される以前は、国内電話は電電公社、国際電話は国際電電に独占されていたが、政府は他の企業が参入することを可能にし、競争により通信料金を下げることを狙った。
電気通信事業は公共事業だ。それまで本業のセラミックは政府に干渉されることもなく、自由にやれる分野だったが、通信事業は勝手が違った。
すぐに規制の厳しさに直面することになる。当時のインタビューでも次のように答えている。
「第二電電というのはちょっとしんどい仕事でありますね。何か、ターザンごっこをして遊んでおった少年が、上流階級の幼稚園に入れられて、お利口さんにならなきゃならんという感じですから」
通信事業の自由化によって、ケータイ電話の世界は大きく変わった。競争が働く業界となり、通信料金も下がったほか、ケータイ端末も年々進化を遂げていった。老若男女が1人1台ケータイを所有する時代へと変わった。
パチンコ業界へも稲盛氏のような「動機善なりや、私心なかりしか」という気持ちで参入するメーカーが登場した暁には、必ずや生まれ変われる業界になる、と確信する。
パチンコ業界はメーカーの努力によって大きくなった一方で、ある時期から日工組という独占組合によって業界は閉塞感に覆われている。
メーカーから発売される機械はどれも金太郎飴で、代わり映えがしない。無駄な装飾や光、大音響競争に走り、遊技者のことを考えて開発しているとはとても思えない。
メーカーは売り上げを上げるために、ホールの許容範囲以上に新機種を発売し続ける。抱合せ販売が独禁法に引っかかると勧告されると、今度は機歴販売という方法で必要のない機械まで買わせる。
遊技業界は通信事業のような公共事業とはいえないが、本来は手軽に楽しめる庶民の大衆娯楽だった。それが機械代の高騰などから3万円~5万円は財布の中に入っていなければ勝てない遊びになってしまった。
京セラのようなメーカーがパチンコ業界へ参入して、真の大衆娯楽に戻せる機械を開発することを期待する。
ちなみに、稲盛経営12ヶ条は次の通りだ。
・事業の目的・意義を明確にする
・具体的な目標を立てる
・強烈な願望を心に抱く
・誰にも負けない努力をする
・売り上げを最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える
・値決めは経営
・経営は強い意志で決まる
・燃える闘志
・勇気をもって事にあたる
・常に創造的な仕事をする
・思いやりの心で誠実に
・常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で経営する
既存メーカーもこの12ヶ条を実行すれば、少しは大衆娯楽に近づく機械が開発されるかも知れない。

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