そして彼が選んだのは、まったく異なる世界——遠洋漁業のマグロ船だった。現在、彼は40歳。過去10年間、彼がどのように生きてきたのかを振り返る。
遠洋漁業の世界に足を踏み入れたのは、知人の紹介がきっかけだった。経験ゼロのド素人だった彼は、最初の1年間を船酔いとの戦いに費やした。初めての給料は月収40万円。決して悪くはない額だったが、慣れない環境と過酷な労働が彼を待ち受けていた。
しかし、続けるうちに彼は着実に成長していった。船の上での生活に慣れ、仕事の技術を身につけるとともに、海技士などの資格も取得。そうすることで、給料はどんどん上昇していった。漁獲量によって変動するが、今では月収150万円、年収に換算すると1800万円に達するまでになった。
遠洋漁業は一度漁に出ると、約10カ月もの間、海の上で暮らすことになる。船内の環境は過酷だが、衣食住すべてが提供されるため、おカネを使う機会がほとんどない。結果として、収入はほぼそのまま貯蓄に回る。現在の年収1800万円という額も、使う場所がないことを考えれば、実質的な価値はさらに高い。
仕事に慣れ、おカネが貯まるとことが分かると辞める者も少なくなっていく。
過酷と思われる船上生活も、技術進歩によって変わりつつある。スターリンクの衛星通信のおかげで、今ではいつでもテレビ電話が可能になり、家族や友人と連絡を取ることができる。そのため、「遠洋漁業は孤独」といったイメージも変わりつつある。
また、船乗りの世界では「板子一枚下は地獄」という格言があるように、船底の板一枚下は深い海で、一度落ちたら容易に生還できない。それぐらい危険な仕事という意味だが、大型漁船なのでそんな心配もない、という。
さらに、乗組員には外国人も多く、英語を日常的に使う環境が整っている。彼もまた、その影響を受け、今では英語がペラペラになったという。
ちなみに、彼の父親であるホールオーナーの現在の年収は800万円。最盛期には8000万円も取っていたが、店舗を縮小すると共に減少し、ついに10分の1にまで落ち込んだ。対照的に、息子は遠洋漁業で年収1800万円を稼ぎ、父親の年収をはるかに上回るようになった。
オーナーは「息子の判断は正しかった」と認めざるを得なかった。
船上での娯楽は限られているが、彼には特別な楽しみがあった。それは、実家のホールから引き取ってきたスロット。船の上でスロットを回す時間は、彼にとって貴重な息抜きのひとときとなっている。
日本に帰国すると、2カ月間の休暇が待っている。その間、彼はじっとしているわけではなく、さまざまな資格を取得している。すでに普通自動車免許、大型バイク免許、大型二種免許を手にしており、次は何に挑戦しようかと考えている。
彼の最終的な目標は、3億円を貯めて世界を放浪すること。その日もそう遠くない。遠洋漁業で稼ぎ続け、貯蓄が目標額に達したら、すべてを投げ出して旅に出るつもりだ。
ホール経営の道を捨て、未経験の遠洋漁業に飛び込んだ男。その選択が正しかったのかどうか——少なくとも、現在の彼の姿は、その答えを物語っている。
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