客からの知らせで事態を把握したホール側は迅速に行動した。まずは警察へ通報した。同時に、店内放送で来店客に対し、自身のクルマが被害に遭っていないか確認するよう呼びかけた。
当時稼働していた約180台の遊技台のうち、100人あまりの客が席を立ち、駐車場へと向かった。
客たちは自分のクルマを確認したが、幸いにも他に被害の形跡は見つからなかった。一安心した客たちは順次店内に戻り、遊技を再開した。しかし、その混乱の中で、ひとつだけ異変が…。
1台のパチンコ台に差し込まれたままの会員カード。その台で打っていた客は、閉店時間になっても、結局戻って来ることはなかったのである。
店側は会員カードから客の氏名や住所、さらには会員情報に紐づく貯玉数を把握していた。記録によれば、その客は実に4パチで2万発以上の貯玉を所持していた。8万円相当になる。それにもかかわらず、1年が経過しても本人が来店することはなかった。
なぜ、これほどの貯玉を放棄したのか。最初は不可解だったが、やがてその理由は明らかになった。
時間を事件当日に巻き戻そう。
車上荒らしの通報を受けた警察官数名がホールに駆けつけ、駐車場で現場検証を行っていた。店内放送を受けて確認のために集まった客たちの中に、妙に挙動不審な動きをする男がいた。普通の客であれば自車を確認し、何事もなければそのまま店内に戻るだけである。しかし、その男は周囲の警察の目をやたらと気にして、目を逸らした。
警察官たちは、挙動不審客を見逃さなかった。現場にいたのはパトカーと交番から駆け付けたスクーターだった。スクーターの警察官は、挙動不審客がクルマに乗り込むのを確認すると、すぐに追跡を開始した。同時に応援を要請し、パトカーも現場に急行した。
追跡の末、警察はクルマを停車させ、車内を検査した。そこで発見されたのは、違法薬物である覚せい剤だった。男は現行犯で逮捕された。
こうして、2万発を残して姿を消した客の正体は明らかになったのである。
1年が経過しても来店しない理由、それは単に「忘れていた」からではない。男は実刑判決を受け、刑務所に収監されていることが推察される。覚せい剤所持という重大な犯罪であり、当然ながら簡単に社会復帰できるわけがない。
あの時、もし車上荒らしが発生していなければ、男は警察の目を逃れ、今もホールに通っていたかもしれない。しかし、偶然起こった事件が、彼の運命を大きく変えた。
犯罪とは、偶然の積み重なりによって表面化するものであり、いつ、どこで、どんな形で露見するかは誰にも予測できないのである。
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