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田舎ホールの「ノート伝説」――カウンターレディと45冊の日記

単店に40年ほど勤務したカウンターレディーが、顧客との会話を20年以上ノートにつけていた。きっかけは店長から「どんな些細なことでもいいからお客さんとの会話をメモしておくように」との指示だった。店長はオーナーの親せきで、客の会話をヒントに稼働を上げるための資料にするものだったようだ。

田舎の単店で客は常連さんが多かった。客とカウンター係の距離が近いので気軽に何でも話す客が多かった。

それでも客の名前は知らないままの関係性がつづいた。そこでその女性が独自に客の特徴を掴んであだ名をつけていた。

例えばこんな具合だ。

頭髪が薄い客は、田中ツル。

夏場はいつも麦わら帽子を被っている客は、桂麦男

アユ釣りが好きな客は、相原鮎男

本名は分からないが、自分が見た目と特徴から付けたあだ名なので、すぐに思い浮かぶ。

ノートに書かれていた内容は、その日の勝ち負けも当然書かれているが、「孫が遊びに来た」「〇〇さんの奥さんが病気になった」「ペットが行方不明になった」などとその日の会話が克明に書かれていた。

そのうち、会話を日記にしていることを常連たちが知ると、「今日も日記に載るような話をしてやるか」と積極的に世間話を持ちかけられたようになった。

面白いのは、店長がその日記を読んで特定の顧客を「優良台」に誘導することができるという点だ。例えば、最近身内に不幸があったという客には、さりげなく出やすい台を勧めた。ホスピタリティが顧客満足度を高め、稼働率の向上につながった。

日々の会話を日記にしただけではなく、そこには顧客同士の相関図まで書かれていた。

「AさんとBさんは仲良し」「CさんはDさんと犬猿の仲」など、ドラマ顔負けの人間関係が一目で分かる。この相関図は、常連たちのコミュニティを理解するのにも役立った。

ちなみに、店長は日記手当を支給していた、というから初期の目的である稼働を上げることにも貢献していたものと思われる。

当該ホールのオーナーに、その日記の情報を聞いた業界関係者が連絡を取ったが、すでに他界していた。どうしても自分の目でその日記を確認した業界関係者は、親せきが保管していることを知る。

実際に現物を見ることに成功した。ノートは45冊あった。親せきの人もそのノートを読んだことがあるようで、トイレで1時間以上読み耽ったこともあったようだ。ノートには笑いと涙の物語が詰まっていた。

現在はコンピュータで顧客データを管理するのが当たり前だが、このノートには「人間の温もり」が詰まった、血の通った「顧客管理」といえよう。

業界関係者は俄然、この日記を出版したくなった。そこには業界再生のヒントがちりばめられていたからだ。続報が楽しみだ。



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