ところが一部の常連客から「あの子はAV女優の〇〇〇〇ではないか」と噂が立つようになった。女は化粧するとすっかり見かけが変わるが、ホクロの位置と骨格から本人との確信に変わった。
そして、一人の客が彼女に付きまとうようになってきた。遅番で帰る時に外で待っていることが一度や二度ではなかった。
深夜で帰るのが怖くなった女性スタッフはすぐに店長に相談した。
店長はとりあえず早番専門にシフトを替えた。夕方帰宅ともなれば、まだ常連客は働いている時間なので、“出待ち”はやまった。
元AV女優のスタッフに常連客が付きまとっていることは、常連客の間では知れ渡っていた。
おせっかいな常連客が店長に「スタッフの〇〇さんは元AV女優だったらしいね」と芸名まで教えた。店長はこの時初めてAV女優だったことを知らされた。しかし、過去の仕事のことと今のホールスタッフの仕事は全く関係のないことで、AV女優だったから、という理由で辞めさせる気は全くなかった。
早番にシフトが変わり、出待ちはやまっていたが、再び始まった。
店長は警察と相談することも考えたが、客でもあるので店長が客と話し合いの場を持った。
客は地元の子が東京へ行ってAV女優になったことを知っていた。で、根っからの彼女のファンだった。ファンレターを渡したくて出待ちを続けていた。そして、付き合って欲しいと願っていた、ということが分かった。ストーカーのように危害を加えるつもりは一切ないことを誓った。
客の気持ちを女性スタッフに伝えた。
ファンであったことは理解したが、彼女には付き合うつもりは毛頭なかった。
「何かあったらいつでも相談しなさい」
それ以降出待ちはピタリと止まった。
しかし、ある日、彼女は突然ホールを辞めることになった。客と結婚することになった、というのが理由だった。
男性客が店長を訪ね結婚報告にやってきた。
「色々とご心配をかけました。結局僕を選んでくれました。AV女優という偏見の目ではなくアイドルとして、ファンとして見ていたことが伝わりました。地元では色んな目があるので、この街を出て転職することになりました。店長の配慮には感謝します」
ホールはLGBTだけでなく、昔から駆け落ちしてきた人や、前科持ちを始めとして、色んな職業の人の受け皿になっていた。弱者に優しい業界だった。

※コメントには必ずハンドルネームを入れてください。匿名は承認しません。コメントがエントリーになる場合もあります。