現金商売であり、日々の売上がそのまま運転資金として使えるこのビジネスモデルは、当時の他の産業と比べても群を抜いていた。
彼は5か年計画として、全国に80店舗を構える構想を打ち立てた。経営戦略には「ランチェスターの法則」を持ち出し、ホール立地の重要性を徹底して研究した。主要幹線道路に面するかどうか、交差点の角地かどうか、さらには道路幅や進行方向――右側か左側かという点にまでこだわり抜いた。これにより、立地が集客に与える決定的な影響を理解した。
しかし、当時すでにパチンコ業界が規制産業であることを見抜いていた彼は、将来的な成長に限界があると冷静に判断する。そして最終的に参入を断念するという結論に至った。
それは、短期的な収益よりも中長期的な視野を重んじた、先見の明による決断であった。
時は流れ、37年後の現在。あの時に一度は断念したパチンコ業界への参入を、彼は再び本格的に模索し始めているという。皮肉にも、彼が予想した通り、現在のパチンコ業界は斜陽産業の代表格となり、世間では「オワコン」とさえ揶揄される。
しかし、そんな中であっても、彼の頭の中には勝算がある。表向きの数字や風評だけでは測れない、業界の“裏側”に眠るポテンシャルを彼は感じ取っているのである。
今回の参入構想は、単なるホールの開業ではない。業界再編を視野に入れた、超大型のM&Aを狙っている。日本のパチンコ市場は、人口減少、娯楽の多様化、そして若年層の遊技離れなど、成長要素に乏しい状況が続いている。しかし、そうした逆風こそが、大胆なことを仕掛ける彼には絶好のチャンスでもある。業界再編の主導権を握ることができれば、業界地図は一変する。
さらに彼の視線は、日本国内にとどまっていない。パチンコ業界で確立した経営ノウハウを武器に、世界市場への展開も視野に入れている。法制度が整備されれば、パチンコ類似の遊技が新たな娯楽市場を形成する可能性は十分にある。日本で培った「遊技産業」としての運営モデルを輸出する構想は、非現実的な夢物語ではない。
彼のビジネス手法の特徴は常にパラダイムシフトを先読みし、一般人には思いつかない角度から勝負を仕掛けることで知られている。その結果として、数々の成功を収めてきた一方で、「山師」との陰口も絶えない。しかし、事実として、彼の歩んできた人生は、成功と強運が交錯している。
彼の動きにある事情通はこう分析する。
「かつて電電公社がNTTとして民営化されたとき、それまで黒電話しかなかった市場に家電メーカーが参入し、一夜にして家庭用電話機市場を開花させた。ダイヤル式からプッシュホン式への移行は、まさにパラダイムシフトだった。彼は、パチンコ業界に同様の変革が訪れると予見しているのではないか」
その変革とは何か。たとえば、現在パチンコ業界を縛っている風営法の枠組みが改定され、「パチンコ業法」として独立した法律体系が整備されることが考えられる。そうなれば、遊技機の自由度、景品交換の仕組み、さらにはデジタル化の促進など、これまで制度上不可能だった革新が一挙に進む可能性がある。
業界脳の人たちには見えていない新市場、新商品、新サービスが、その制度改革の先に眠っているのかもしれない。そして彼は、すでにその可能性を読み切っているようにも見える。
果たして、彼の再挑戦は新たな歴史の扉を開くのか。それとも、時代の終焉と共に散る運命なのか。それは五分五分といったところだろう。

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