こうした状況を目の当たりにしていて、あるホールの店長は客の立場で考えてみた。
「いくら保証されるといっても期日を過ぎると一般景品ではお客様は納得しないと思います。中には100万円相当を貯めこんでいらっしゃるお客様もいます。J-NETの保証額は100万円までですが、100万円分の一般景品もいらない。たくさん貯玉しているお客様には換金を促した方がいいではないかと考えるようになりました」(店長)
店長は役職者を集めてその話をした。みんな同意した。そこで社長に上申したところ「ほっとけ」。
貯玉を貯めるのが趣味の人もいる。勝った玉は全部貯玉して、新たにプレイするときはすべて現金。貯玉は一切引き出さない。こんな人がぽっくり逝ってしまえば、貯玉は永遠に引き出されることもない。
NTTのプリペイドカードが持て囃された時代、色々な業種がこぞって参入した背景には、利便性以外に退蔵益にあった。期限を過ぎて効力を失った場合、発行者側の利益になる。
それと同じような考えが社長の頭によぎったようだ。
特に高齢者が多いのが特徴でもあるパチンコホールは、亡くなられてホールに来なくなった貯玉会員も少なくない。
都内のあるホール。
店長はいつもジャグラーを打っていたおじいちゃんの姿を見かけなくなったことが、気がかりでしかたなかった。
1週間、10日と過ぎて行った。
「これは何かあったに違いない」と胸騒ぎがしてきた。
おじいちゃんと仲がよかった常連客に聞いて見て、悪い予感は的中してしまった。
おじいちゃんはやはり亡くなられていた。
店長はおじいちゃんが貯メダルしていたことを把握していた。
データを確認すると、メダルで15万円、玉で1万8000円分ほど貯まっていた。
結構な金額である。
店長は「これは遺族に返却しなければならない」と考え、オーナーに相談すると同じ意見だった。
おじいちゃんはDM発送はOKだった。ということは家族はおじいちゃんがホールに通っていることは知っている、と思った。
電話を掛け事情を説明した後で、DMの住所を頼りにおじいちゃんの自宅へと向かった。
出てきたのはおばあちゃんだった。
「お父さんはパチンコが好きだったからね。好きなことを最後までやれてよかったですよ」
貯玉は直接店へ来てもらわないことには引き出せない。
店長はおばあちゃんと一緒に店へ向かった。そして、おばあちゃんに暗証番号を入力して、全部の玉とメダルを引き出した。
思わぬお小遣いが入って、おばあちゃんから感謝されたことはいうまでもない。
今回は頻繁に来ていた常連さんで、貯玉していたことも知っていた店長が機転を利かせて、遺族に返却することができたが、これが小額だと気づかれることもない。
前出の店長はいう。
「大口の貯玉会員には不測の事態に備えて、換金を促した方がいいという考え方は変わりません」

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