歳は80歳ぐらいの常連のおばあちゃんで、リーチが外れると「ハマちゃんったら、もう」とか「スーさんの意地悪」とか、目の前に人がいるかのように話しかけているのだ。
夢中になると大声で「ハマちゃん!」と叫んだりするので、周りのお客さんが気持ち悪がるようになった。
店長はおばあちゃんになぜ、そんなに気持ちが入り込むのか、さり気なく聞いてみた。
「釣りバカ日誌の大ファンで、映画は全部観ていたの」
理由はそれだけではなかった。
少し前に亡くなられた、おばあちゃんのご主人のことも思い出していたのだ。
ご主人もハマちゃん同様の釣り好きで、前作の釣りバカ日誌は2人でよく打っていた思い出の機械だった。
釣りバカ日誌を打っていると亡くなられたご主人のことが浮かんできて、つい、台に向かって話しかけていたのだ。
この話を聞いて店長は思った。
「昔は思い出になるパチンコ台が一杯あったのに、今は思い出に残る台がどれぐらいあるだろうか? 液晶では思い出に残らない。昔は役物のことで話が咲いたものだ。ハネモノの亜流であるボクシングなどは、いつまでも忘れられない」
役物が全盛期時代のパチンコは、天や飛び込みを狙って、一点集中して打ったものだ。緊張感を持ちながら打った。それだけに、玉飛びの悪い台との格闘でもあった。
格闘といえば、中小ホールのオーナーは、会社をこのまま存続すべきかどうか、判断を迫られ、オーナーならではの悩みと格闘している。
一線を退いて、息子に代表権をバトンタッチしたオーナーは70代。ホールは5店舗。年々経営は厳しくなっているが、まだ、かろうじて赤字にはなっていない。このまま右肩下がりが続けば、支払いも滞りそうな気配だ。
今が会社を畳む引き際ではないかと考えているが、その結論を下すことができない。
店舗の大半は建て替え時期を遠に過ぎている。建物も設備も古い状態では、近くに大手の大型店が出店してきたらひとたまりもない。
それに対抗するためには、全面リニューアルを図らなければいけないが、大借金しても返済できるメドは立たない。
何故なら、4円が衰退する中で、1円の収益で店を建て替えることなど無謀に思えるからだ。
「4号機とMAX機では随分助けられた。また、いい機械が登場したら業界は何とかなる、と思っていたが、何ともならなくなった。高校生の孫もパチンコは継がない、といっている。孫に借金を背負わすわけにもいかない。借金する前に手じまいしたい…」
リニューアルしたくてもできない中小は、このホールだけではない。
MAX機で売り上げの上がる機械を求めるホールの気持ちも分かるが、そういう機械を好むのはマニアックな客であり、結果的には先細る客層である。
ライトユーザーが増やすには、1台10万円台で、チューリップ役物のような釘で遊ばせる機械が必要になる。

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