それを店員に告げると、すぐに店長のところに報告が上がった。
店長の行動は早かった。
館内放送で「財布を落とされたおばあちゃんがいます。足元をご確認下さい」とお客さんに協力を求めた。
財布を拾った場合、ちゃんと届けるかネコババするかのどちらかだ。店長はネコババされないようにするために、あえて館内放送した。
モニターカメラを見ていると、お客さんのほとんどが、下を向いて自分の足元に財布が落ちていないか確認していた。
お客さんは至って協力的だった。
ところが、財布はホールのどこにも落ちていなかった。
ホールでさっきまでおカネを使っていたので、ホールで落としたことには間違いないことだけは確かだった。
善意の第三者が現れることはなかった。
おばあちゃんはがっくりと肩を落とした。
おばあちゃんはもう一度バッグの中を探してみると、下のほうから財布が出てきた。
落としたと思ったのはおばあちゃんの勘違いだった。
落としたことがおばあちゃんの勘違いだったにせよ、出てきたことに店長は自分のことのように喜び、安堵した。
そして、店長は再び館内放送をした。
店長はとっさの機転を利かせた。
「皆様のご協力のお陰で、無事財布が見つかりました」
ウソをついて、おばあちゃんの名誉も守った。
見つかったことで、一部の常連客からは拍手が起こった。
勘違いではなく、財布を落とすことはある。
財布の中には、キャッシュカード、クレジットカードから、免許証まで入れている人が少なくない。
おカネは諦めるとしても、カードを止めたり、再発行する手続きは面倒なものだ。
通帳と印鑑でおカネを下ろすには銀行の窓口で顔写真付きの本人確認ができるものが必要になる。
となると免許証が必要になる。
免許証の再発行をいの一番に行わなければならない。
一度こんな経験をするとGPS機能付きの財布が欲しくなる。

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