見た目は普通で、会話も普通にできる。特段変わったところはなかったが、少しずつ「おや?」と思うような行動を取るようになった。
本人が公休日でも、ホールが忙しい時は、店長が出勤をお願いすることもあった。休日出勤手当てが付いた。
それは店長が指示してから、出勤となるのだが、A君は公休日に「きょうは働けるので出てきました」とタイムレコーダーを押して働くことがたびたびあった。
周りは店長の指示の下に休日出勤していると思ったら、本人の独断だった。
無断で休日出勤していたことを注意するとA君はこう言い放った。
「居酒屋でアルバイトしている時は、許可なしでも出勤できました。だから許可はいらないものと思っていました」
アルバイト先のことが基準になっていることに、唖然とするばかりだった。
この時、初めて分かるのだがA君は、就活で約150社のエントリーに失敗していた。
ある日、遊技を終了した客の玉を運んで、ジェットカウンターに流す作業を行っていた。お客はカード会員で貯玉を希望した。A君は間違ってボタンを押して、レシートを発行してしまった。
カードにデータを移すべく、カウンターに向かった。
ところが、カウンターに到着すると、肝心のレシートがない。ポケットのどこを探してもレシートがない。
一瞬のうちにパニックになったA君は、お客に謝ることも忘れて、ホール内を四つん這いになって探し始めた。その光景が異様に写った。
このホールでは、男性社員でもカウンターに入ることがある。
この時「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました!」と元気なあいさつを行っていた。
まさに、威勢のいい居酒屋風のあいさつだった。
店長はホール向きではないので、もう少し声を抑えてあいさつするようにアドバイスした。
するとA君は「前の職場ではそんなことをいわれたことがない!」と逆切れし始めた。
またしても、行動基準がアルバイト先になっている。
A君のためにも、事あるごとにホールの基準に合わせるように注意していたが、A君は自分が全否定されているように思い込むようになった。
やがて会社を休みがちになって、2~3日会社を休むこともあった。
鬱になっていた。
家族と同居していた。
親が「会社が原因で息子が鬱になった。息子がこうなったのは、店長の責任。民事で訴える」と言い出した。
ことの一部始終を会社に報告していなかった店長は、訴えるといわれて狼狽している。
最近の若者は社会常識が特になくなっている。
アルバイトとはいえ、履歴書がえんぴつ書きだったり、写真を貼っていない、印鑑を押していない、ケータイ番号は個人情報だから教えられない、遅刻するのに電話もしてこない…などなど。
ホールの新卒採用にしても、大手を落ちた人材が中小の受け皿になっている傾向が顕著になってきている。
企業格差が人材格差になって現れている。
これからの店長は稼働を上げることだけでなく、人材教育能力や人事管理能力まで問われてくる。
最初の採用の時にポテンシャルの高い人材を見極める必要があるが、受け入れるホール企業に相応の魅力が必要になる。さらには、優秀な人材を振り向かせるだけの魅力がある人事担当者を投入する必要がある。
そこで注目されているのが人材アセスメントだ。
これは企業が人材を配置するにあたり、その人物の潜在的な性格や適正を事前に評価することである。
つづく

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