40年余り勤めた会社を辞めて暇になったAさんは、だいぶ久しぶりに大好きだったパチンコ店へ通うようになった。もちろん、1パチで暇をつぶすのが日課になってきたある日、横に座っていた客から声を掛けられた。
その人は人材派遣会社の人だった。この会社はマンションやパチンコ店の清掃を請け負っており、Aさんの年恰好を見て、清掃の適任だと思った。
Aさんは還暦手前だが、まだまだ働きたいと思っていた。シルバー人材センターへも登録していたので、渡りに船で、この誘いに乗った。
で、Aさんの職場となったのが大手チェーン店だった。
清掃は開店前と閉店後に入ることになった。ただ、シフトは毎日入ることはなかったが、そこでAさんはホールの裏側を観ることになる。まさにAさんは「家政婦のミタ」気分になってきた。
Aさんはこの会社はしっかりした会社というイメージがあった。残業にも厳しく、残業しないように早く帰ることを厳命されていた。残業した場合はその理由を書かなければならないほど徹底している。
清掃で入っているうちに3人の社員と仲良くなった。3人がそれぞれ悩みを抱えており、相談相手が外部の人で人生の大先輩でもあるAさんだった。お互いの休日には連れ立ってディズニーランドへも行くほどの仲になった。
3人の年齢は20代後半から30代半ば。悩みはずっと働いていられるかどうか、ということだった。出世すれば本社への道が開けるが、そうでなければ、40になっても50になっても現場勤務ということになる。定年までいられるとは考えていない。
会社の居心地はすこぶるいいので、転職することも考えなかったが、コロナ禍で危機感を感じるようになった。転職するには今の年齢しかない、と考えている。転職サイトへも登録しているが、条件は悪くなり、給料も下がるので踏ん切りがつかない。
踏ん切りもつかずに、それほど居心地がいいのなら、行けるところまで行くしかないのではないか、と思ってしまう。中小・零細のように倒産することはないだろう。
3人の社員が心のよりどころとしてAさんは、シフトが毎日入らないという理由から4カ月でこのバイトを辞めてしまった。

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