このホールの昼間の客層は大半が白髪頭なのだが、驚くべきことに7割が女性客だ。
女性客といっても、いうまでもなくおばあちゃんなのだが、表周りも行う社長の作戦がまんまと当たって女性客を増やした。
社長の作戦は「女性客には徹底的にえこひいきする」。女性客が増えれば、自然と男性客も付くからだ。
例えば、おばあちゃんには「余り玉で何か欲しい物ある」と聴く。
そこからハンドクリームや顔パック、入浴剤のリクエストをもらった。年寄りは感想肌なので、そういった保湿性のあるものを求める。
景品問屋では扱っていないものばかりなので、社長自ら近所のドラッグストアーへ足を運んで買ってきて揃えた。
これが、リクエストしたおばあちゃんだけでなく、他のおばあちゃんにも受けて、ヒット景品になった。
社長自ら台周りの清掃もする。
ハンドクリームを扱うようになって、ハンドルがハンドクリームでベタベタしているのが分かるぐらい、おばあちゃんたちの必需品になっている。
パーキンソン病を患っているおばあちゃんは、病気にもめげず、毎日ホールへやってくる。
体がカチカチに硬直してぶるぶると震える。歩くスピードも極めて遅く、自動ドアにもひっかかるぐらい、すぐには歩き出せない。
おばあちゃんを支えたことから仲良くなり、開店前から店の前に並ぶようになった。
社長は「毎日来ているから、あまりおカネを使ったらアカンよ。今日はテレビでも観て帰り」と優しく声をかける。
「出えへんわ!」
70代の元気なおばあちゃんもいる。おばあちゃんの中でもリーダー格だ。
このおばあちゃんがホールを辞めようとしたスタッフを思い止まらせた。
22歳のA子さんはシングルマザーだ。保育園に通う4歳の子供が一人いる。
A子さんは気分がいい時と悪い時の顔の表情がそのまま現れるタイプで、落差が激しかった。サービス業として失格だ。
このことを社長が注意した。
このことがきっかけで、「社長のやり方にはついていけません」と店を辞めると言い出した。
社長はやる気のない者を引きとめようとはしなかった。
A子さんが辞める、という話を聞きつけたリーダー格のおばあちゃんが社長に「もう1回だけ使こうてやってくれ」と直談判した。
「この商売は本人に気力がないとしんどいんですよ」と社長は応じる気はなかった。
「私が説得するから」とおばあちゃんも引かなかった。
「じゃ、もう1回やりたい、とはっきりいった時は考えます」
おばあちゃんはA子さんをこう説得した。
「あんた、次に行くメドはあるんか? 夜の仕事でもするんか? 色んな所へ行ったら分かるけど、ここの社長のような所はないんやで。もう一回考え直し」
おばあちゃんの説得を受け入れ、A子さんは辞めずにその後も働くようになった。
嫌なことがあっても顔に出ないようになった。
客も従業員も家族の一員のような雰囲気が、顧客密着営業だ。

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