これが何を意味するかというと、店内の騒音レベルが大幅に低下する、ということだ。確かに、耳をつんざく大音量から解放されるのは、体にも心にも優しい話である。
しかし、ここで一つの問題が浮上してくる。そう、人間というのは実に勝手な生き物なのだ。「あんなにうるさいから嫌だ」と言っていたかと思えば、静かになった途端、「なんか寂しい」「これじゃあ、打ってる気がしない」といった声がちらほら聞こえ始める。
まさに「静か過ぎてもダメ」な状況に、ホールは頭を悩ませることになる。
これに対して、一部のホールは打開策としてBGMに目をつけた。「よし、それなら音楽でお客を盛り上げようじゃないか!」というわけで、いまや店内のBGMの研究が進められているという話である。
だが、ここでもやっぱり建前と本音は存在する。
「心地よいBGMで快適に遊技を楽しんでいただきたい」というのが表向きの目的だが、裏の狙いはもうちょっと違う。「稼働率アップだ!もっと戦闘モードにさせろ!」というのが本音である。
一度、パチンコ店のBGMがどんなものか、改めて考えてみよう。今までは、あまり気に留めていなかったかもしれないが、実はBGMにもそれなりに工夫が凝らされている。
かつては、大騒音にかき消される形であまり目立たなかったBGMが、今後の「静かなパチンコ店」では主役級の存在になるのだ。ここで気になるのが、どんなBGMがふさわしいのかということ。
たとえば、そばチェーン「富士そば」では、演歌以外の音楽は一切流さないという独自のポリシーがある。なぜかというと、演歌が心地よく、食欲をそそるからだそうだ。これに倣って、パチンコ店にも「これだ!」というBGMが必要だろう。
でも、果たしてどんな曲がパチンコ店にマッチするのか? シンプルに考えるなら、激しいロックやダンスミュージックのような、鼓動を高める音楽が適しているのではないかと思いがちだ。
しかし、パチンコ店の客層は年齢層が広い。シニア層も多いことから、過激すぎる音楽だと逆に敬遠されるリスクもある。そこで、「心地よい緊張感」がキーワードになる。
ゲーム感覚を残しつつ、リラックスできるBGM、例えば映画のサウンドトラックのようなスリリングなメロディーに注目が集まっている。
また、心理学的には、BGMには人間の集中力や感情に影響を与える力があると言われている。
テンポが速い音楽は心拍数を上げ、興奮状態を引き起こす一方で、リラックス系の音楽は脳を落ち着かせる効果がある。パチンコ店はこの特性をうまく利用して、お客がどんどん玉を投入するモードに誘導したいところだ。
つまり、パチンコ店のBGMの選曲は、単なる「背景音楽」ではなく、実は経営戦略の一部なのだ。静かになりすぎた店内で、どのような音楽が新しい「音の興奮」を生み出すのか。いまだに正解は見つかっていないが、軍艦マーチの進化版が案外いいかも知れない。

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