離婚して身軽だったこともあって、故郷へ帰る選択をしたものの、田舎なので再就職先はなかなか見つからなかった。イオンモール内に貼り出されてあったテナントの求人募集を全部受けたが、年齢的なもので全部落とされた。田舎のネックは高齢者に再就職先はそうそうないことだった。
そんな中でやっと見つかったのがホールの清掃スタッフの仕事だった。午前中は開店前の8時から10時まで清掃。途中、中抜けはあるものの、遅番の清掃が終わるのは深夜1時だった。
遅番の清掃を続けていると自然と店長と仲良くなった。仕事終わりに深夜まで営業している居酒屋で飲むようになった。
それで分かったことは、店長はAさんよりも年上であること。店長は今のホールでは10年ほど勤めているが、以前は全国大手にも在籍していたことが分かった。で、今のホールは定年退職制度もないために、遠の昔に60歳を過ぎたのに現役で働けていることも分かった。
店長の世代はバブルも経験していて、景気の良い時には随分散財した世代でもある。で、店長が同世代の遊技客をウォッチングしていて気づいたことが、田舎の人は50代になるとおカネを使わなくなることだ。その理由は田舎の会社だと退職金が少なく、勤続年数×10万円というケースも少なくないこと。つまり、30年勤続でも300万円ほどにしかならない。そんなことを意識し始めるのが50代で、老後のためにおカネを貯めるようになる。
そのためにまず止めるのがパチンコだった。
店長の経験値から「パチンコ50歳寿命説」を立てていた。50歳から逆算して例えば40歳の人なら後10年だ。50歳までに止められないようにするにはどうすればいいかを考えた。
そこで導き出した答えをAさんにも伝授した。
清掃スタッフといえどもホールスタッフの一員である自覚をもって、お客さんが来たら、黙って清掃しているのではなく、「こんにちは」と掃除の手を止めてでもあいさつすることだった。
それで会話が弾めば、掃除は後回しでもいい、というぐらいコミュニケーションを優先させることだった。特に寂しがり屋の年配客は、会話を求めてホールに来ているケースもあるように、それを50歳になる前から励行することで、少しでも50歳寿命説を延ばす作戦でもあった。

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