バス会社を辞めた理由は給料の安さだけではなかった。大勢の乗客を乗せての安全運転は毎日が緊張の連続だった。特に道幅の狭い道路で自転車を追い越す時は、神経をすり減らした。道交法上は追い越す時に自転車との間隔を1.5メートル以上は空けないといけない。そんなに空けられる道なんてそうそうなかった。
今乗っているタクシーはジャパンタクシー。トヨタがタクシー専用に開発したもので、運転もすごくしやすくて、運転していてもバスのように疲れることもなかった。
精神的にも楽だが、入社して1年も経たないうちにバス会社時代の給料よりも年収ベースで150万円も増えた。
バスと違ってタクシーは自分が努力した分、歩合給で跳ね返るのも魅力だ。
そして、話し好きのAさんは乗客との会話も楽しみの一つになっている。バスの運転手時代では乗客との世間話などご法度である。
ある時、競馬好きでパチンコも好きな客を乗せた。
その客曰く「競馬には夢があるけど、パチンコには夢がない。競馬は100円が50万円にも100万円にもなって戻って来る」とギャンブルと遊技を比較した。
3連単専門で1レースに2000~3000円を使っていた。そもそもパチンコで50万円も勝とうとすることが間違いなのだが、文句を言いながらもパチンコが止められない様子だった。これを依存症と呼ぶのだと思った。
また、ある時は3人連れを乗せた。会話の中から、3人はパチンコ業界でもホール関係者であることが分かった。同じ会社で1人は社長。もう一人は本部長クラスの感じだった。
「運転手さんはパチンコやりますか?」と社長らしき人から声を掛けられた。
「昔はやっていました。私の前職はバスの運転手で20年以上会社には勤めたんですが、だんだん行けなくなりました。給料は上がらないのに、カネばっかりかかるようになりましたからね」と返答した。
「おカネがかからないように1パチがありますよ」
「いえ、私は1パチがあることは知っていますが、1パチじゃなくて4パチが打ちたいんですよ。4パチなら1万円あるところ、1パチじゃ2000~3000円。これでは達成感がないんですよ。1パチは4パチファンの受け皿にはなりませんよ」と初見のホール社長に思いの丈をぶつけた。
おカネがないのなら1パチがあるというのは、業界の論理であってユーザーの本当のニーズではない。
パチンコをやっていて不満をぶつけるところがなかった。お客さんではあるけれど、ホール関係者と分かってこれまで貯め込んでいたものを発散させた。
Aさんはこの時思った。ユーザーのガス抜きの場として、パチンコ業界でユーザーの不満を聞いてくれる窓口を開設する。ユーザーの声を吸い上げて、業界の問題点を改善することで、遊技人口の回復につなげる。
開設しても9割は「もっと玉を出せ」という不満しかないかもしれないが、残りの1割の中にきらりと光る提案があるかも知れない。
日遊協の西村会長ならこういう提案には興味を持ってくれそうではある。

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