入団7年目の有愛さんは、若手による「新人公演」のまとめ役だった。自主稽古などの活動時間を労働時間とすれば、公演までの1カ月で118時間以上の「時間外労働」があった。そこに上級生からのパワハラなどが重なり、精神状態が不安定になっていた。
芸能の世界に時間外労働の概念そのものがなかったのかも知れないが、今回のケースは宝塚の伝統とも言える上級生からの執拗ないじめが引き金になっている。そこに過労が加われば精神状態は鬱になり、死にたい願望が強くなる。
パチンコ業界での過労死を検索すると2004年の大手ホールの事件がヒットする。23歳の新入社員が接客や台の入れ替え作業など、早朝から翌朝までの長時間勤務をさせられたり、指導のないまま不慣れな仕事を任されたりして、疲労や睡眠不足から鬱状態となり、同年6月26日に社員寮で自殺に追い込まれたとしている。もう20年近く前の話でもある。当時よりは労働環境は改善されていると思われる。
その一方で、仕事を楽しんでいた店長は月150時間の残業も厭わなかった。本人に残業という意識がなかった。
「閉店後から明け方の4時ぐらいまで毎日のように釘調整をやっていました。当時はハネモノのレッドライオンの時代。10分間で何回鳴かせたら、お客さんが追っかけるか。鳴いても何回拾わなければ追っかけなくなるかのデータを取り、それに基づいて釘調整していました。その研究が楽しくて仕方なかった。それまでのレッドライオンの稼働時間が5時間だったものが、私が導き出した調整方法で9時間半まで稼働を上げることができた。私のように、そうやってお客様との駆け引きが楽しい人にとって、150時間の残業は苦労でもなんでもなかった。それよりも稼働を上げる方が楽しかった」と述懐する。
今は釘の本数そのものが大幅に減っているため、釘調整で時間をかけることもないし、ハネモノのように釘で稼働を上げられる時代でもなくなった。
ま、本人が目的を持って残業している場合は、残業が苦にならないようだが、宝塚歌劇団にも労基のメスが入ったように、芸事でも許されない時代に変わっている。
労務管理から解放されたいホールにすれば、人材派遣会社に丸投げした方が楽だ。時給換算では自社雇用より割高だが、求人コスト・教育コストなどをトータル的に比較すれば安くなる、というわけだ。しかし、肝心の派遣会社の方が人集めに苦労しているぐらいだから、いい人材は派遣会社には回って来ない。
そうなるとホールの無人化ニーズはさらに高まってくる。
業界のヒトの問題は無人化が解決してくれることになるのだろうか。

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