年末年始の書き入れ時を前に、A店長のホールには66台もの新台が投入される。今の時代では結構な台数とも言える。しかし、その分、会社から与えられた売り上げ・粗利のノルマは相当キツイ数字だ。厳しいノルマがA店長の心を押しつぶす。
新型コロナが5類感染症に移行したのは今年5月8日から。いよいよアフターコロナ時代に入り、入国規制が取っ払われて、10月のインバウンド客は251万6500人で、2019年比0.8%増(2019年実数:249万6568人)となり、コロナ後で初めて2019年の実数を上回った。
コロナ禍で失った売り上げを取り戻さんばかりの絶好調な旅行・観光業界とは裏腹に、パチンコ業界は今一つ盛り上がらない。レジャー白書2023では、パチンコの参加人口は前年比50万人増の770万人となっているが、市場規模は前年から横ばいで回復は見られず、2019年比では73.0%の水準にとどまっている。
A店長の心に重くのしかかるのが会社側からの「去年はコロナだったのだから、今年は上がって当たり前だろう」という認識だ。レジャー白書が示す通り、参加人口は徐々に回復はしてきているが、売り上げは2019年の水準を超えることはない。
会社からは稼働・売り上げを上げろ、と発破は掛けられるものの、具体的な上げる方法の指導が営業本部長からあるわけでもなく、「新台は入れてやっている」のだから上げろ。
これまでのやり方で頑張ってもお客さんが増えることもなく、どうしていいのか分からないA店長のモチベーションは下がるばかりだ。
A店長はこの現状を家に帰ると奥さんに愚痴るしかなかった。奥さんの方も連日の様に同じ愚痴を聞かされるのが嫌になるというものだ。
そこで奥さんが取った行動が凄かった。
「あなた、もう会社辞めなさい。就職先を見つけてきたから」とママ友の紹介で大規模農家を見つけてきた。外国人農業研修生も使っている農家で、後継ぎがいなかった。1年間修業して後は任せる、というような条件だ。
給料はホール店長として貰っている年収は保証する、ということで農業ド素人に提示された金額は580万円だった。
給料に不満はないものの、農業は全くの門外漢で、仕事がキツイというイメージしかないので、即答できないA店長がいた。
奥さんの方は「パチンコ業界にいても将来性がないと言ってるんだから、世の中の役にも立つ農業の技術を身に着けて頑張りなさいよ」と発破をかけられている。
店長も辛いがそれ以上に辛いのは営業部長だろう。店長よりも責任は重く、店舗がどんどん閉店していく状況になれば、自ら辞表を書くしかない。

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