パチンコ日報

ニュースにならないニュースの宝庫 

第5話 新世界 ④

苦い初陣

「業務連絡、業務連絡。坂井主任、三番両替機までお願いします」

主任襲名三日目のことである。

「了解」と主任らしいいつもよりか声のトーンを抑えながら、僕は意気揚々と足取りも軽く三番両替機へと向かう。

「ちょっとぉ、まったくいつまで待たせるのよ。早くしてよ」

いきなりの剣幕に押され気味になったが、ここで客に舐められては主任の沽券にかかわる。

「はいはい、わかりました。ちょっと待ってね」

と言いつつわざと緩慢な動作で両替機に鍵を差し扉を開ける。しかし内心は緊張の居地だった。カルティエから一応の説明を受けてはいたが、実際にトラブルを処置するのはこれが初めてである。正直言うとどこをどうしたらいいのかすらわからない。おまけに僕はメカには滅法弱いのである。しかし客の前でそんな素振りは絶対見せられない。そう、僕は主任なのだから。

「で、どうしました」

「お釣りが出てこないのよ!一万円入れて九千円のおつりがで・な・いの!見てわからないの!何が『で、どうしました?』よ。あんたちょっと態度悪いんじゃない」

その女性客はこれでもかと言わんばかりに厚かましく、そして猛烈に抗議する。

「そう言われてもねえ。特に異常はないんですよ。本当に一万円入れたんですか」

状況に窮した僕は言ってはならない事を言ってしまった。しかし吐いた唾を飲みこむことはできない。

「それ、どういうことよ!あたしが嘘でも言っているっていうの?冗談じゃないわよ!毎日毎日ここに来て、一回も勝てないし、先月なんかいったいいくら負けたと思ってるのよ!五十万よ、五十万も負けてるのよ!客の金を搾り取るだけ搾り取っておいてその上こんなやり方でまだ金取るっていうのかさ!だいたいあんたこの両替機直せるのかさ!本当はわからないんじゃないの?店長呼びなさいよ、店長を」

「まあまあ、お客さん落ち着いてよ」

といった僕が全然落ち着けていなかった。

「何がまあまあよ。これが落ち着けって言えるのかさ!人を疑っておいて黙ってられるわけ無いでしょ!」

気がつくと僕たちの周りに何人かの客が集まっていたみんな僕の行動に批判的な眼差しだった。少なくとも僕にはそう見えた。途端に背中から嫌な汗がじわっと流れる。群衆の中に子ガメがこちらをヘラヘラしながら見つめている。嫌な予感は的中する。子ガメは両手で人垣をかき分けこちらに歩いてきた。

「坂井くんよお、お前お客様を泥棒呼ばわりしちゃあまずいだろうよ、ああん?」

ニタニタ笑いながらその怖い顔を僕の顔に近づけてくる。腐い吐息がもあっと臭う。今までの僕なら黙って俯くだけであったが、主任という立場上これではいけない、なめられてはいけない、こんなところで威厳を損なってはいけないと思い、今日は勇気を振り絞って精一杯の去勢を張った。

「誰も泥棒なんて言ってないじゃないですか。それに宮田さんは関係ないじゃないですか。今調べてる最中ですから向こうに行っててくださいよ」

言ってしまった。子ガメの顔がみるみる赤くなるのを見届けて僕は後悔した。しかし時すでに遅し。

「へえ、坂井くん偉くなったんだねえ」

バン!鈍い音と共に一瞬目の前から何も見えなくなった。そして鼻の奥がつーんとする。続けざまにバチン!今度は頬から耳にかけて皮膚が裂けるような痛みがして、キーンという音が左耳から聞こえてくる。

「舐めた口きいてんじゃねえぞ、こらあああ!」

僕は右手で右目を押さえ左手で左の耳を抑えながらその場にうずくまる。

「てめえ主任になったからっていい気になるじゃねえ。あんまり調子こいってとやっちゃうぞこら!」

もう来ないと思っていたのにトドメの一発が来た。バキっという音と共に子ガメの回し蹴りが僕の左脇腹に食い込む。2メートルほども吹き飛ばされただろうか。苦しくて息ができなかった。僕はううっと、うめき声を上げる。

『こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か』なぜゆえに昔少年チャンピオンに連載していた『魔太郎がくる』(藤子不二雄作)の名台詞が頭をよぎったのかは僕にもわからなかった。

つづく

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