パチンコ日報

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第5話 新世界 ③

二転三転

カルティエとの話を終えてから部屋に戻り、またひとり考えてみる。ここに居るみんなはそれぞれの過去があって、今という現実がある。今は過去が積み重なって今なのだろうと思う。そしてお偉い人達は出会いに偶然はなく必然である、と唱える。そのような気もするし、そうでない気もする。

僕がここに来て仕事をするということは必然的なことなのだろか。そして今をどう過ごすかによって未来は決まってくる、らしい。ならば僕の未来はどのようなものになるのだろうか。きっと大したものにはならないのだろう。

それは容易に想像できる。何故なら僕はこの三ヶ月のうちに何度もここを辞めようとした。いや、辞める、辞めないは一日のうちに何度もカードの裏表をひっくり返すように簡単に変わる。そんな今を過ごす僕に明るい未来が開けているとは到底思えない。
 
だいたい僕は過去をいい加減に過ごしてきた。だからぱちんこ屋なんかに勤めているのだろう。腹違いの兄弟やこれまで育ててくれた両親の顔色を伺いながら家庭での殆どを過ごしてきた。僕がおもしろおかしいことを言うと「お前は馬鹿だねえ」「まったくお前は面白いねえ」 とみんな笑ってくれる。

笑ってくれるのか笑われているのかは僕にとってどうでもいいことであった。僕は内向的な性格の弟と妹にこの家の家族たちが向ける冷たい避難の視線から外すため、懸命にピエロを演じた。その度に僕は嫌悪感に陥る。そして言いようのない虚脱感に苛まされる。

自分が周りの人間を意識しながら自分を偽り、ほかの自分を演じることは、中学高校六年を通じて自然と板についた。今では苦痛すら感じない。僕は家庭で得ることのできない愛情なるものを外に出て、友達や目上の人たちに求めるようになった。だが愛情なるものは求めれば求めるほどこの手には収まらないようにできているらしい。

こちらから自分の魅力を最大限にアピールしても誰も僕を振り返ってくれない。だから僕は寡黙になる。そして孤独が怖くてまたピエロを演じる。
 
仕事は一生懸命にやったつもりだ。経験が浅く物事の良し悪しもまだわからないが、自分なりに正面から仕事に取り組んできたつもりだ。しかしそれは仕事が面白くてではなく、周りの人達から認めてもらいたいというものが根底にあったからだ。

習性というものは恐ろしいもので、僕は社会人になっても周囲の目を気にしている。絶えず嫌われたらどうしよう、認めてくれなかったらどうしようという強迫観念に駆られながら毎日を過ごしている。そんな中でのカルティエの話だった。僕は彼の傍若無人さに腹を立てながらも一方では嬉しかった。そして主任に昇格という響きも決して悪くないな、と思っている。給料のベースアップ率は不満だがそれは二の次にして、仕事をする際にある程度自分の考えを反映させることができるというのは魅力的なことである。
 
この店の改善点はひとつやふたつどころではない。もしそれを自分の考えを織り交ぜてより良い店にすることができるのならばこんなに素晴らしいことはないだろう。何よりもあれこれ指図できる立場というのは、気持ちがいい。

小学校で学級委員長をやっていた頃はみんな僕の言うことを聞き入れてくれた。僕にはまだその時の快感が残っている。社会に出てリーダーシップを取れるのであればそれも悪くはないのではないか。ついさっきまでの会社を辞めるという選択は徐々に薄れていった。

この部屋の綿埃が畳の上をコロコロと音を立てて部屋の隅へと転がっていく。元来飽きっぽく心変わりをするのが早いのが僕の特性である。そしてよく言えば順応性に富んでいる。悪く言えば主体性に大いに欠ける。器用貧乏の典型的パターンであること自覚しているつもりだ。

「主任かぁ」ぼそっとつぶやく。

やってみようという思いが徐々に強くなってきた。人生色々だしせっかく何かの縁でこの店に入ったわけだからもう少しここにいてみようかな、と思うと急に心が晴れやかになって来た。

遠い彼方から一筋の光明が差す、と同時に黒く重たい雲はまばゆい光によって霧消し始める。心は積極的に踊り、すべてが肯定的に思えてきた。カルティエの期待に応えるべくここで頑張ってみようと決心した。しかし登り始めた太陽の向こうにさらなる重たい雲が雷を伴いこちらに向かってきているのを僕の目は捉えていなかった。

つづく


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