パチンコ日報

ニュースにならないニュースの宝庫 

第3話 漂流者 ⑨

カルティエVS西田

驚くことにその日から三日間同じことが続いた。ソバージュの女は朝一番に乗り込み、わき目も振らず508番台めがけてスタスタと歩いていく。台に座ると彼女の真っ赤な唇がセブンスターを咥える。

煙をフウっと口と鼻から出す。100円玉を機械横のサンドイッチに投入する。ジャララララと玉が出る。細長い足を組みハンドルを握るその姿からかなりの年季が感じられる。やはり彼女はプロなのだろう。寸分の隙をも見せず、その動きには一切の無駄がない。

そしていつも通りに4000個打ち止め寸前まで玉をはじき、こともなげに特殊景品と交換して帰っていく。彼女は三日間淡々とその行為を繰り返した。

僕は悶々とする。主任とソバージュが組んでいることは状況的に見て100%間違いないのだがそれを立証する物的証拠がない。もっとも僕は証拠を掴んだところで何もできないのだが。玉がいとも簡単に出てしまうという前代未聞の原因を作ったのは僕自身であり、知らなかったとは言え不本意ながら僕は立派な共犯者なのである。この時点でなぜ役物に工作をすると玉がでるのか、なんていう事に興味も関心もなかった。今は黙ってことの流れを見るしかない。そう自分に言い聞かせた。

厳密に言うとそれしかできなかったのである。四日目の夕方、早番と遅番の引き継ぎミーティングの際に僕はカルティエと主任の西田が二人でヒソヒソ話をする場面を目撃した。

「主任よ、508番台なんだけどさ、あの台シメても、シメても出ちゃうんだよな。何か変わったことはないかい。これ以上は釘シメらんないぜ」

困り果てたようにカルティエが言う。

『元来、釘師といわれる者はいつも客との真剣勝負をしているわけだから、すべての物事に諦めるという行為は許されない。出すもシメるも自由に操ることができて一人前の釘師よ』というのがカルティエの哲学だ。それが簡単に覆ってしまった。

僕は取り返しのつかない、そして申し訳が立たないことをしたと意気消沈するばかりである。物的証拠がないからカルティエに事の顛末を伝えるわけにもいかず、またそれを言ったところで自分に被害が及ぶことを考えるともう恐ろしくて、恐ろしくていてもたってもいられないのである。だから結局僕はダンマリを決め込むしかほかに方法がなく、心底途方にくれてしまった。
 
主任は一度僕の顔を見てから

「ああ、多分役物の性能がいいんじゃないですか。私は釘のことはよくわかりませんから何とも言えないですけど。あ、今ちょうど打ち止めの札がかかって機械が止まっていますから役物の具合、見てきましょうかね」

と、こともなげにカルティエの問いを軽くいなした。ギクッとした。そんなこと言っちゃっていいのだろうか。もしあの厚紙を挟んでいることがカルティエにばれたら主任はどう説明する気なのか。いやちょっと待て。むかしむかしの江戸時代から、悪人は自分の罪をそばにいる弱い者に擦り付けるのが常套手段だ。

ということはこの僕は絶体絶命のピンチに見舞われるではないか。充分にありえるかなりリアルな妄想に駆られると、小便をちびりそうになる。この場で気絶して泡吹いて倒れ込みたい。

「ああ、じゃあそうしてくれ」

カルティエは疑う素振りも見せずにあっさりと頷く。

「じゃあ坂井くん。君も一緒に来てくれないかな。今後の勉強にもなるしね。いいですよね、店長」

「ああ、行って来い。坂井、お前最近緊張感がないから主任にみっちり教えてもらえよ。弛んでんじゃねえぞ」

「はい」と素直に応えはしたものの、この自分史上最大のピンチに立たされていても、やっぱりコイツは好きになれんと思った。しかし今はそれどころではない。

事務所を出た僕は主任から冷水を浴びせられる。

「絶対に何も言うんじゃねえぞ。誰にもな」

ドスの利いた声がさらに恐怖を煽る。頷く以外の選択肢を持たない僕はトボトボと主任の後ろをついて508番台にたどり着く。主任の動作には少しの無駄もなかった。まず台を開けてなにかないか点検するふりをしつつ、役物の位置関係を探るがその演技に嘘っぽさの微塵も感じられない。

実際後ろで見ている限りは何もしていないのだが主任は頭をひねりながらここかあそこか、といろいろな箇所を検査するふりをする。すると一瞬のこと。ポケットから精密ドライバーを取り出し、二本のねじを緩めあっという間に厚紙二枚を取り出した。間近で見ていてもその業は神業的であり、なおかつ取り出した厚紙の所在が全くわからない。僕が唖然とした。と、不意に後ろから声がした。

「どうだ、なんかわかったか」

僕は飛び上がった。顔はひきつり、心臓はフルマラソンを終えた時くらいに早鐘を打つ。カルティエはいつからここにいたのだろうか。僕はもう一巻の終わりだと観念し、ガックリと肩を落とす。

「ああ、店長。役物を抑えているねじが二本ゆるんでいましたねえ。よくあるんですよね、こういうことが。きっちり締めこんでおきますから多分これで止まるとおもいますよ。安心してください」

「お、そうか。なるほどな。これで台を開放してみて次の客が打って出なかったらそれが原因だったということだな。だよな。俺の釘は完璧だからなあ。わかった坂井、がははは」

いつもの豪快な笑い声ではあったが気のせいかもしれないが店長の目は笑っていなかった。

その日の夜。僕がセブンイレブンに煙草を買いに行く道すがら、ジャージ姿でズラズラ歩いているとモスグリーンのスカイラインGTが後ろからクラクションを鳴らしてきた。これは主任が社長から借りている車だ。僕は無意識のうちに身構える。

「おつかれさん、夜更かししねえで早く寝ろよ」

と言った主任の隣にソバージュの女が乗っていたのを僕は見逃さなかった。

つづく



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