1980年代に放映されたアルマンの禁煙パイポのCMは、ハンドサインを使った代表的な事例だろう。真面目そうな中年男性が、ふと小指を立てて「私はこれで会社を辞めました……」とつぶやく。たったこの動作だけで、「女性が原因で辞める羽目になった」という背景まで想像させる破壊力を持っていた。当時の視聴者には強烈な印象を残し、40年経った今でも語り継がれるほどだ。
しかし、ハンドサインは文化と共に変わり、そして風化する。意味が共有されていた時代を離れれば、ただの謎の動きに成り下がってしまう。
その象徴的な例が、パチンコに誘うときのハンドサイン――手を丸め、右へひねる独特の動作だ。昭和世代なら「ああ、パチンコ行くってやつね」と即座に分かるが、Z世代にやってみせたところで「何その動き?」で終わる。
ところが、この“通じない合図”をテレビCMで若者に広めようという広告代理店の提案があるという。
だが、パチンコCMといえば忘れてはならない前例がある。2023年、KIBUN PACHI-PACHI委員会が俳優の柴咲コウを起用し、大々的に放映したテレビCMだ。巨大なパチンコ玉に乗った柴咲が「楽しんでる?」と語りかけるあの映像である。
放映当時、SNSは批判一色だった。
「ホールの負担を増やしお客を締め上げている張本人の日工組が、よくこんな“楽しんでる?”のキャッチフレーズでCMを打てたものです」
「パチンカーの気持ちの逆撫でにしかなっていない。ユーザー体験を理解していない証拠」
「電通まで使って予算かけて、あの中身? 企画段階で止められなかったのか」
などの声が相次ぎ、むしろ“逆効果の広告”として語り継がれる始末となった。
こうした失敗を踏まえての ハンドサイン復活案である。
構成は極めてシンプル。多数の著名人が例のハンドサインをしながら「パチンコ行く?」と呼びかけるだけ。それによって若者にもサインの意味を浸透させるのが狙いだ。
しかし、ここで素朴な疑問が湧く。
そもそも若者はパチンコをサインで誘われるほど、軽い娯楽だと思っているのだろうか?
むしろ現在の20代にとって、パチンコはおカネがかかる、時間の無駄遣い、勝てないという負のイメージが支配的だ。負担を強いられ続けてきた中高年でさえ、ホール離れを起こしているのが現状である。
そんな中、ハンドサイン広告を打ったところで「だから何?」と返されるのがオチではないだろうか。
※コメントには必ずハンドルネームを入れてください。匿名は承認しません。コメントがエントリーになる場合もあります。