そのおじいちゃんの息子さんも、同じホールに通う常連客だった。ある日、店長の耳に一つの情報が入る。亡くなった父親の家に、5箱入りのティッシュボックスが大量に残っているというのだ。その話を聞いた瞬間、店長は閃いた。
「これ、正月営業の特売景品に使えるんじゃないか」
正月はホールにとって一年で最も重要な稼ぎ時であり、同時にサービス合戦が激しくなる時期でもある。安価で仕入れられ、かつ生活必需品であるティッシュは、集客用景品として申し分ない。話はとんとん拍子に進み、5箱入りティッシュ50セットを安価で譲り受けることになった。
交換条件も工夫した。2026年にちなんで、26玉交換。4円パチンコなら26玉=104円相当だ。スロット客にも配慮し、5枚で飴玉4個を付けるサービスを付加した。
近隣のドラッグストアでは、同じティッシュが特売でも250~300円程度。計算上は、かなり“お得感”のある景品だった。
店長は当然、こう考えていた。
「少し遊技して、余った玉で交換してくれればいい。正月らしいサービスになる」
ところが、現実は店長の想定を軽々と超えてきた。開店直後から、ある異変が起きる。客が貸し玉ボタンを押して玉を出すと、遊技する前に手にした26玉をそのまま持って景品カウンターへ直行するのだ。
遊ぶ前に、まず景品交換。そんな行動が次々と続いた。
結果、用意した50セットは瞬く間に完売。正月営業の目玉景品は、開始早々に姿を消した。
呆然としながら、店長は心の中でつぶやいた。
「ばらして、1箱5玉交換にしておけば良かった…」
5箱セットではなく、1箱ずつ小分けにしていれば、もう少し長く客を引き留め、遊技にもつなげられたかもしれない。しかし、後悔先に立たず。サービス精神と商売勘のわずかなズレが、生んだ“想定外”の結末だった。
この一件は、ホール営業の難しさを象徴している。客は常に、店の想定よりも合理的で、したたかだ。善意で用意したサービスほど、使い方を誤れば一瞬で消費される。
26玉のティッシュボックス5箱セットは、正月の笑い話として語り継がれると同時に、店長にとって忘れられない教訓となった。
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