パチンコ日報

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天国と地獄のドラマ──メーカーと脚本家のすれ違い

80代のホールオーナーには、ひ孫がいる。

ある日、そのひ孫が無邪気に尋ねた。

「おじいちゃん、今度、家族で日帰り旅行に行こうと思うけど、どこがいい?」

東京在住の家族は、当然のように熱海や箱根といった近場の温泉地の名が返ってくると思っていた。ところが、オーナーの口から出たのは予想だにしない言葉だった。

「日帰りか……。じゃあ、天国だな」

家族は一瞬、沈黙した。笑っていいのか、涙ぐむべきか迷った。オーナーは昔から、自分が死んだら天国か地獄か──と冗談まじりに口にするのが癖だった。しかし、老い先を意識したその一言には、どこか本音の響きもあった。

この何気ないやりとりが、思わぬ形で波紋を広げる。
話が巡り巡って、テレビドラマの脚本家の耳に入ったのだ。

「これはドラマになる」と、その30代の女性脚本家は直感した。

死後の世界を行き来しながら現世に戻る男の物語──。天国と地獄、そして再生。人間の根源的なテーマが詰まっている。

しかし、ドラマを作るにはスポンサーが必要だ。その話がまたホールオーナーの元に戻ってきた。

「スポンサー? 面白いじゃないか」

オーナーが声をかけたのは、取引のある遊技機メーカーだった。メーカーの反応は意外にも前向きだった。

「これはパチンコにぴったりです。“天国と地獄を行き来する演出”はウケますよ。ドラマ放送後、パチンコ化できるなら5000万円出しましょう」

かくして、「天国と地獄のドラマ」はパチンコとのタイアップ企画として動き出すことになる。

実際、ドラマがパチンコになるのはよくあることで、京楽からは「冬のソナタ」や「天国の階段」などがタイアップ機としてリリースされている。

ところが──。

最大の問題は、脚本家がパチンコをまったく知らないことだった。彼女は生まれてこの方、ホールに足を踏み入れたことすらない。

メーカーからは「自社の最新機3台を打ってみてください」と指示が出た。

軍資金5万円。場所は新宿の大型ホール。

彼女はホールスタッフの指導を受けながらハンドルを回した。

しかし、数時間たっても当たりは引けず、液晶演出が延々と続くだけ。何が楽しいのか、どこで興奮すべきなのか、まったく理解できなかった。

「スタートに入って、映像を眺めて……それのどこが面白いの?」と首をかしげながら呟いた。

打てば打つほど、物語の方向性が見えなくなって行った。

「パチンコに絡めて書け」と言われれば言われるほど、思考が停止する。

「私はパチンコを題材にしたくない。人の生と死、天国と地獄を自由に描きたい!」と心の中でそう叫ぶが、スポンサーの存在がそれを許さない。

天国へ行きたい老人の物語は、いつしか“パチンコ演出ありき”の脚本に変わっていく。

ホールオーナーの何気ない一言から始まった夢のような企画は、現実の利害と打算に揉まれながら形を変えつつある。


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