おじいちゃんが心から愛したのは、ハネモノだった。Vゾーンに吸い込まれる一瞬のハラハラと、拾われるか落ちるかのドキドキ、そして入った瞬間に爆発するワクワク――。
その全てが凝縮されていたのが、ゼロタイガーだった。
最近、ガンの宣告を受け、おじいちゃんが口にした願いは、ただ一つだった。
「死ぬまでに、もう一回ゼロタイガーを打ちたい」
家族はこの一言を聞き、即座に動き出した。
どこで探してきたのか、還元機付きのゼロタイガーを20万円で購入。
釘も盤面も丁寧に洗浄され、外観はきれいだった。
念願の実機がわが家に届いた日、おじいちゃんは涙ぐみながらハンドルを握った。
しかし──打ち始めてすぐに、違和感を口にした。
「こんなに出なかった。これじゃ、ゼロタイガーじゃない」
昔、ホールで打ったゼロタイガーはそんなに甘くなかった。
玉が入らずイライラし、やっと出た出玉が嬉しかった
いま家にあるゼロタイガーは、よく鳴き、よく拾うのでV入賞の感激も薄れ、あの頃の緊張感が欲しかった。
つまり、楽しむためには“営業釘”が必要だったのだ。
家族はすぐに動いた。
最初に行きつけのホールへ飛び込み、顔見知りの店長に直談判した。
「ゼロタイガーの釘調整、お願いできませんか?」
突然の依頼に30代店長は固まった。そもそも、液晶デジパチ全盛の時代に育った若手には、ハネモノの釘など触った経験がない。
困惑の末、丁重に断られた。
しかし、家族は諦めなかった。飛び込みで7軒のホールを回った。
返ってくる答えはどこも同じ──
「ハネモノの釘はわからない」「技術者がいない」。
しかし、その噂が巡り巡って、ついにある人物へ届く。
60代後半、かつてハネモノ全盛期の現場を知り尽くした元ホール関係者だ。
「ゼロタイガーの釘……懐かしいな」
ゲージ棒とハンマーを手に、彼はおじいちゃんの家を訪れた。
盤面を見て状況はすぐに分かった。
鳴いて拾う調整。つまり、実際のホール営業ではありえない甘さだった。
おじいちゃんが望んでいるのはその真逆、
昔の鳴かせて拾わない釘だった。
釘師魂がふつふつと湧いてきた。久しぶりのハネモノ調整に指先が感覚を取り戻していった。
玉の流れを想像し、釘をわずかに触る。
昔取った杵柄という言葉が、そのまま目の前で具現化した。
調整が終わり、おじいちゃんが打ってみた。
ハネは開くのに思うように玉を拾わない。
時に腹立たしく、時に嬉しく、心の葛藤の後にやっとV入賞…
「これだ……これだよ……!」とおじいちゃんは叫んだ。
家族は職人技に見とれた。
「月1回のメンテナンス、お願いできませんか?」
釘師冥利につきるお願いだった。二つ返事で引き受けたのは言うまでもない。
家族の執念と、一人の釘師の技術が、思い出のゼロタイガーを蘇らせた。
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