3万円を手に向かったのは、長年通い続けてきた地元のマイホール。
その日はまるでパチンコの神様がAさんの退職を祝っているかのように久しぶりに大勝ちした。15万円を手にすれば、懐が温まれば、口も軽くなる。帰宅後、つい奥さんに大勝ちの報告をした。
ところが、奥さんは即座に退職祝いの3万円を回収したのであった。
Aさんは苦笑いするしかなかったが、それでも手元には12万円が残った。
その軍資金を元手に、夫婦は関西旅行へ出ることにした。
京都・大阪・神戸の三都巡りである。
京都では観光地が外国人で溢れ、清水寺周辺は「9割がインバウンド」。着物姿の外国人が目立った。Aさんは京都の風情が姿を消したことにガッカリした。
大阪ではバンジーマニアの血が騒ぎ、茨木市に誕生した日本最長の吊り橋で二人乗りブリッジスイングに挑戦した。
神戸では念願の神戸牛を堪能した。
そして大阪・ナンバ──
道頓堀で大阪グルメを堪能した後、パチンコ好きのAさんは当然のようにホールへ足を運んだ。奥さんはこれまでの人生で10回ほどしかパチンコをやったことがない。
まずはパチンコを打つも、1万円があっという間に溶けてしまい、奥さんはすっかり気落ちしていた。
そこでAさんが提案した。
「スロットの方が自分のペースで打てるよ。ジャグラーなんてどう?」
奥さんは半信半疑でジャグラーの島へ。
すると──
2000円目、ゴーゴーランプが突然ペカッ!
そこから連チャンが止まらない。
ビッグ、ビッグ、またビッグ。
最終的には 2万3000円の勝ち。
奥さんは完全に覚醒してしまった。
東京へ戻ってから、奥さんはAさんにこう言った。
「またジャグラーを打ちたい。光った時の快感が忘れられない」
パチンコで1万円負けたときには“死ぬほど後悔した”という奥さんが、ペカった瞬間の喜びに癒され、YouTubeでジャグラー動画を研究するまでになった。
関西旅行に行かなければ、この変化は起きなかった。
ジャグラーで“勝てた”からこそ、奥さんはスロットを好きになったのだ。
そして、ここにパチンコ業界が直面する真理がある。
人は勝てた時に初めて「また打ちたい」と思う。
負け続ける環境では、誰もやろうとは思わない。
今のホールの経営状況では、勝てる体験を提供しないホールが多すぎる。
射幸性で煽らなくても、また打ちたいと思える勝ち体験が何よりも必要だ。
その小さな成功体験こそが、新しいファンを生む。
Aさんの奥さんを覚醒させたのは、派手な演出でも、凝った仕掛けでもない。
ただの 1回のペカだった。
業界が失いかけているものは、このたった1回の光なのだ。
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