かつて勤めていたホールの常連に、一人の女性占い師がいた。見料は1000円。家族や夫婦、子育ての悩みを抱えたパチンコ客の間でも知られた存在で「よく当たる」と評判だった。
ある日、運送業の仕事で行き詰まりを感じていたAさんは、久しぶりにその占い師の下を訪ねた。
「このままでいいのか分からない」と漏らすと、彼女は静かに言った。
「高知へ行きなさい」
新潟から遠く離れた高知。土地勘もなければ知人もいない。都会のように仕事が豊富なわけでもない。
「はあ?」と苦笑いしたのが正直な反応だった。
占い師は続けた。
「高知でパチンコ屋に勤めるのです」
Aさんはしばらく言葉を失った。運送業とは関係ない。しかし、かつて自分が身を置いた勝手知ったるわが家のような業界だ。
数日悩んだ末、Aさんは「一度だけ信じてみよう」と決意する。休暇を取り、当てもないまま高知へと向かった。
高知市内に着くと、アーケード街のいくつかのホールを回り、街の空気を感じ取った。初めての土地だが、なぜか不思議と落ち着く感覚があったという。
その夜、視察を終えたAさんは居酒屋の暖簾をくぐった。賑やかな店内、藁焼きの火が燃え盛り、カツオが目の前で炙られている。
カウンターに腰を下ろし、地酒で旅の疲れを癒やしているうちに、隣の女性と自然に言葉を交わすようになった。
酒の勢いも手伝い、Aさんは自分の身の上を問わず語りに話し始めた。
「新潟から来た」、「パチンコ業界に戻りたい」
そんな話を聞いた女性はふとこう言った。
「だったら、ホールの社長を紹介してあげる」
まるでドラマのワンシーンのような展開だった。後で分かったことだが、その女性はそのホールの社長夫人だったのだ。「純情そうで真面目な人」という印象をその場で見抜いたのかも知れない。
話はトントン拍子に進み、面接を経て正式に採用が決まった。条件は手取り25万円、寮費無料。翌月から高知への引っ越しが決まった。
Aさんは言う。「あの時、半信半疑で高知へ来ていなかったら、今の自分はなかった」と。
占い師の言葉は、単なる予言ではなく、背中を押してくれたきっかけだったのかも知れない。
誰かの一言、偶然の出会いが、次の扉を開けることになった。
Aさんにとって高知は、占い師が示した「運命の地」であり、再び業界に帰る再出発の場所となった。
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