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地獄から天国へ。大阪出張で出会った3万円の奇跡

定年前は部長職だったAさんは、定年延長を選択し会社に残った。肩書は部長から平社員へ。給与も大幅に減額された。しかし任される仕事の中身は、部長時代とほとんど変わらない。責任も判断も従来通り。それでも待遇だけは「平」に降格。出張時のホテル代上限も、かつての3万円から1万5000円へと引き下げられた。

そんなAさんが東京から大阪へ出張したのは2月下旬のことだった。大阪は何度も訪れている街だ。最近は中国人観光客が半減したため、ホテルは簡単に取れるだろうと高を括り、予約を入れずに現地入りした。

初日の仕事を終えた足で向かったのは、ナンバ・千日前のホール。軽く食事を済ませ、時間つぶしのつもりで台に座った。軍資金はホテル代に充てるはずの1万5000円だ。ここでAさんに幸運が舞い込む。夜9時頃から連チャンモードに突入。閉店15分前まで打ち続け、最終的に3万5000円の勝ちとなった。

意気揚々と換金を済ませた直後だった。背後から突然殴られ、怯んだ隙に財布の入ったカバンごとひったくられた。強盗だ。すぐさま最寄りの交番へ駆け込み、事情聴取は2時間半に及んだ。被害届は受理されたが、当然ながら金は戻らない。

財布には現金だけでなく、クレジットカードや帰りの新幹線チケットも入っていた。ホテル代も支払えない。警察が金を貸してくれることもない。

野宿を覚悟し、翌朝訪問予定の取引先に頭を下げ、新幹線代を借りるしかないと腹を括った。

深夜2時過ぎ。ベンチでうな垂れていると、身なりの整った高齢の紳士が「どうかしましたか」と声を掛けてきた。

Aさんは包み隠さず事情を話した。

「それは災難でしたね」

紳士は財布から2万円の交通費と、1万円の見舞金を差し出した。計3万円である。さらに「朝までうちで休んでいきなさい」と自宅へ招いた。

案内されたのは豪邸だった。お手伝いさんもいる。話をして分かったのはホールオーナだった。

「せっかく大阪に来て、こんな目に遭わせて申し訳ない」と、まるで自分の責任であるかのように詫びた。

Aさんは厚意に甘え、朝まで酒を酌み交わしたという。

朝、3万円を返すため連絡先を求めたが、紳士は笑って固辞した。

「嫌味ではないけど、私にとって3万円は、駄菓子屋の100円のようなものです」

強盗に遭い、地獄に突き落とされた夜。しかし同じ街で、手を差し伸べる神がいた。大阪でAさんが得たのは、失った金以上の記憶だった。



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