苦渋の自衛策として、長年の楽しみだったタバコもやめた。かつて仕事帰りに立ち寄っていたパチンコ店も、いまは遠い記憶の中にある。
そんなAさんが目を留めたのが、職場の40代女性社員4人による“弁当当番制”だった。1食あたりの予算は400円。外食すれば軽く1000円はかかる時代である。Aさんは思い切って仲間に入れてもらい、昼食代の圧縮に成功した。わずかな差額だが、月に数千円の余裕が生まれる。減らされ続ける日常の中で、久しぶりに懐に温もりを感じた瞬間だった。
これが、多くの中小企業サラリーマンの実像ではないだろうか。
一部のシンクタンクは「景気が上向けば可処分所得が増え、パチンコ客も戻る」と予測する。しかし、家庭を持つ会社員が気軽に遊技できる環境が整っていない現状を見れば、その見立ては楽観的過ぎる。可処分所得が増える前に、生活防衛意識が染みついてしまっている。パチンコ習慣が断ち切れている中、おいそれと戻ってくることはない。
北関東で5店舗を運営するあるホールオーナーは、先行きの見えない業界環境に不安を抱き、全店売却を検討している。しかし、県庁所在地の駅前ですら寂れている地域性もあり、買い手は現れないという。
「4円等価や1パチが始まった頃は、まだ業界には活気があった。ただ、業界は先を見ずに突き進んだ」とオーナーは振り返る。
かつては1物3価、4価といった1パチと4円、パチンコとスロットでは交換率の幅があり、1パチなら3000円程度で“遊べる”余地があった。しかし1物1価の徹底により、1パチも実質等価化。気づけば1万円があっという間に消える遊技になった。
本来求めるべきは射幸性を高める規制緩和ではなく、1物3価を認める柔軟な制度ではないか――それが彼の持論だ。
もし1パチの交換率を下げ、少額で長く遊べる環境に戻せたなら、弁当代を浮かせたAさんでも、月に1回ぐらいは気兼ねなくホールに足を運べるかもしれない。
いま問われているのは、射幸性の強化ではない。遊べる日常を取り戻すことだ。Aさんの小遣い2万円は、業界の現在地を静かに物語っている。
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