四国のとある県で飛ぶ鳥を落とす勢いで、競合店を圧倒するホールが突如出現した。当時、店舗の平均台数が300台の時代に、その店舗は600台に規模を誇った。四国などの田舎町となると特にムラ意識が強く、周りと違うことをするのを嫌う傾向が強い。
このホールの出現によって田舎町の既存店は客を奪われることなり、600台の店舗が目の上のたんこぶ状態になってきた。
600台のホールは集客のためにありとあらゆる方法を使った。ま、当時としては業界スタンダードだったモーニングや裏モノも活用した。それはお客の懐を痛めつけることが目的ではなく、あくまでもお客を喜ばせるためのものだった。
このホールの店長の給料はどんどん上がっていった。カネは飲み代などに消えていた。
競合店がこの600台のホールを潰すために考えた行動が、店長を潰すことだった。店長さえいなくなれば、店は潰れる、と。
競合店のオーナーの一人はヤクザとの付き合いもあった。店長潰しをヤクザに依頼した。方法はヤクザに任せた。
600台の店の店長は行きつけの飲み屋があった。そこの10代の女の子といい仲になった。やがてプライベートでデートするようになり、大人の関係になるまで時間はかからなかった。
ある日、店長の下に若い男が尋ねてきた。
「未成年に手をつけて、この落とし前はどうつける気だ」と凄んだ。
男はベッドで会話した録音テープと、望遠レンズで撮影した2人の写真を元に、ゆすりをかけてきた。
この会話の中で、女に勧められて覚せい剤に手を出したくだりまで録音されていた。女に手を出しただけでなく、店長は覚せい剤や大麻にまで手を染めていた。
女性との肉体関係は民事だが、覚せい剤となると刑事事件になる。
男は「警察に密告する」とさらに脅しをかけてきた。
店長は窮地に立たされた。
「どうすればいい?」と男に聞くとこう条件を出してきた。
「慰謝料は500万円。店長を辞めたら今回のことは水に流す」
高給取りだったので500万円はすぐに用立てられる金額だった。店長職はどこのホールへ行ってもなれる自信があったので、600台のホールに未練はなかった。
カセットテープと写真のネガを渡すことを条件に、店長は男の要求を呑んだ。
後で分かったことだが、これはヤクザが仕込んだハニートラップだった。店長が行きつけの店を探し出し、その店で店長が恋心を抱いている女を探り当て、女にカネを渡して罠を仕掛けたものだった。
店の新入りのホステスではなく、本人が恋心を抱いていた女性だったので、店長もまったくノーガードだった。
ホールを辞めた店長は、狭い四国ではこれ以上は、働かれないので大阪へ出てきた。大阪では下っ端社員から働いたが、すぐに頭角を現し、オーナーから店長になってくれ、と言われるまでに時間はかからなかったが、断り続け、居辛くなると店を転転とする生活を送っていた。
四国の一件で店長は懲り懲り。さほど責任がない主任で30~40万円の給料でやるのが一番楽なことが分かったからだった。

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