宴席から聞こえてきたことは、中小ホールがいかにして生き残って来たか、という経営哲学だった。
この4人に共通することは、在日である先代から苦労話を聞かされて育ったことだ。さらに「おカネは大事にしろ」と口を酸っぱくして言われてきた。
業界が儲かっていた頃、業界人は東京・銀座や大阪・北新地、博多・中洲で派手に飲み歩いたものだった。飲み歩くだけでなく、愛人を作ったりして散財したものだ。そうしたホールが今は残っていない。
彼らは親の教えを守り、散財することなく、余剰資金を価値が上がりそうな不動産投資と金の投資へ向けた。現金はインフレで価値が下がるから資産を分散した。
ホールは全部自社物件だ。賃貸では家賃を払う分、玉を出すこともできないからだ。
4人に共通することはまだある。ホールオーナーと言えばベンツだが、彼らは「外車に乗ることがカッコ悪い」という考えから全員、レクサスに乗っている。
4人のうちの1人がコツコツと買い増ししてきた金を最近全部売却した。売却額は17億円だが、全額を新たな不動産投資に向けた。
「ホールには追加投資はしない。追加投資しても儲かる商売ではなくなったから。建物や設備が限界に来たらそこでホールは廃業する。今はホールの収益を不動産収入の方が上回ることもある。今は不動産業のようなもの」と笑う。
話しはホール社員の掌握術に及んだ。
「店長の誕生日にはポケットマネーで自分の財布から5万円を渡す。さらに店長の奥さんの誕生日には10万円を渡している。奥さんから必ず、お礼の品と手紙をいただく」
会社の経費ではなく、自分のポケットマネーで渡しているところがミソである。
最初は店長だけだったが、誕生日の祝儀を制度化し、副主任には誕生日を休みにし、1万円、主任には同様に3万円を渡すようにしている。
酒席なので話はあちこちに飛ぶ。
ホール企業で飲食業に参入するケースは珍しくないが、あまり成功事例というのは聞かない。その中で、数少ない成功事例があった。
それは街の定食屋だった。後継者がいない定食屋に資金援助したのが始まりだった。従業員の給料もホールの方から出しているのだが、料理長には破格の給料を出して独立する気を起こさないようにしている。
なぜ、定食屋か? 理由は簡単だ。ラーメンを毎日食べる人はいないが、定食屋なら毎日でも来てもらえる。
定食屋経営をはじめて50年が過ぎた。建物は老朽化している。ホールならとっくに建て替えているが、定食屋は逆に古さが“味”となって、そういう経費がかからないところが定食屋の魅力だという。
常に新台を入れ替え、建物は大型で新しい店にお客が集まりやすいホール業界――。売り上げ額は大きいが、粗利はそれに伴わない現状では、効率の悪さも垣間見えてくる。

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